アツイ



うーん、うーん、そう唸りながら蹲っていらっしゃる若君。
お加減が悪いのだろうか、と一瞬心配したが、若君の後ろにある罠を見つけて小さく苦笑した。

あぁ、また若君の悪戯ね。
今日は一体誰が引っ掛かるのか……

しばらく様子を見ているとつららさんが若君を心配しながら駆け寄ってきた。
すると案の定、罠に引っかけられてつららさんは宙吊りに。
そんなつららさんに若君は「相変わらずドジだなー」と笑いながらどこかに行ってしまう。
つららさんを助けなくていいのだろうか、と首を傾げていると、遠くから黒さんと青さんも来るのが見えた。
宙吊りになっているつららさんを見つけるとつららさんに慌てて駆け寄ってしまい、

―――ズボオォ!


「なんじゃああ!」

「ま、またやられたぁー!」


落とし穴にハマってしまった二人。
そんな二人を見ていた若君が楽しそうに笑う。

…まったく…若君ったら悪戯がすぎますね……
でも、それを止めない私も、私かもしれない。

再び小さく笑うと若君、と若君に話しかける。
振り向いた若君は小さなお口を軽くすぼめてちぇっと拗ねだす。



「また姫は引っ掛からなかったなー」

「ふふっ、若君のことはお見通しですから」

「…っ、そっか…」


若君は小さく俯くと嬉しそうにはにかんだ。
その様子が可愛らしくてずっと見ていたかったが、私が若君を探していた理由を思い出す。



「そうでした…若君、お祖父様がお呼びですよ」

「じいちゃんが?行ってくるね!」

「はい、いってらっしゃいませ。若君」

「…ねえ、どうして姫は僕のこと、若君って呼ぶの?」

「……若君は、若君ですから」



そう呼ぶことで、自制しているんだ。
腹違いといえど、弟である若君をリクオさま、などと名前で呼んでしまったら、きっと……

いとおしくて、仕方がなくなってしまう。

きっと困ったように笑ってしまっただろう。
そんな私に若君はずいっと顔を近づける。


「リクオ」

「…え…?」

「リクオって、呼んで」

「……、…若君、」

「命令だよ?」


言わないと許さない。


そんな声が聞こえてきそうな、若君。
真剣で…小学生だというのに、少し色気も感じる眼差しに間近で射抜かれ、逆らう言葉を失う。

ほら、早く、とばかりにどんどん近づく顔。…それはもう、キス、できる、距離に、



「…っ、リクオ、さま…」

「……もう一回」

「…リクオさま、」


―――ちゅ、

そんな軽い音とともに、私の唇に落とされる口づけ。
もちろん、その相手は若君で……

思わず唇を押さえて、顔が熱くなっていくのを必死で堪える。

そんな私の姿に若君は小学生らしからぬ笑みを小さく浮かべて、私の髪を軽く撫でた。


「いってきます、姫」



―――あぁ、顔が熱い。

どきどきと心臓が痛いくらいに高鳴る。


全部全部、…若君のせい。

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