ニテナイ
ある日の放課後、待ち合わせのバス停に行くと珍しく若君の方が後にきた。
いや、こんなこと初めてではないだろうか。
いつもは若君が先に待っていてくれて、安心するような笑顔を見せてくれるのに。
この時ばかりはしょぼんとしていて、あまり元気がなかった。
「…若君、どうかされましたか?」
「………ねえ、姫は妖怪だよね?」
「…?はい、父も母も妖怪なので」
「………姫も、…何か、悪いことをするの?」
「悪さ、ですか…?」
思いもよらない質問に目を瞬かせる。
確かに妖怪とは“畏”られてその強さを得られる。畏の一部である恐を発揮している妖怪はたくさんいる。
でも、私の場合人に仇なすことをすることはできない。
父も母も、人間が好きだったから。
だから若君の問いに対して驚きはしたが、優しく笑いかけた。
「いいえ。私は…人間と仲良くしたいですから」
「……そっか、…そうだよね!」
「ですが、妖怪が恐れられて畏を得ているのも事実です。…もしかしたら人間にとっては妖怪は悪いものと思われているかもしれませんね…」
「…………」
また明らかに元気をなくす若君。
…何かいけないことを言ってしまっただろうか。
もしかしたら今日学校で何かあったのかもしれない。
だからといって元気づける言葉も見つからず、そのまま本家に帰ることになった。
帰ってからも若君はしょんぼりと縁側に座ったまま。
その様子に私は声をかけることができないでいた。
「どうしたんですか、リクオ様。元気がないですよ」
「…うん、ちょっとね」
首無さんが話しかけても元気のないまま。
理由も教えてくださらない。…どうしたらいいのだろう。
そう悩んでいると首無さんはぬらりひょんさまが若君を呼んでいることを伝えた。
親分衆の寄合で若君を呼ぶということは…恐らく若君3代目襲名を発表するのだろう。
…ついに、ついに、若君が3代目に…!
ドキドキと心臓が高鳴っていくのがわかる。
私がずっと望んでいたことだ。私が若君の腹違いの兄弟とわかったときから。
思わず笑みが溢れているとつららが不思議そうに首をかしげた。
「どうしたの?」
「…今日、若君が3代目を継がれると思うとすごく嬉しくて…」
「うふふ、そうですね」
「若君が3代目になれば、きっとこの組はもっとよくなる」
私はそう信じているのです。
そう呟くとつららも嬉しそうに頷いた。
「さ、若が3代目になる瞬間を見に行きましょう!」
「はい」
総会をつららと一緒に覗きに行く。
丁度採決をとるところでぬらりひょんさまが「お前に継がせてやるぞ!」と宣言しているところだった。
ついに、と心臓が高鳴った瞬間、若君の嫌だ!!という大きな声が響き渡った。
「こ、こんな奴等と一緒にいたら人間にもっと嫌われちゃうよー!!」
「(若君…!?どうしてそんな…っ!)」
「おじいちゃんなんか、全然似てないよー!!」
部屋から飛び出す若君の後ろ姿を追いかける。
どうして、なぜ、あんなことを…!
あなた以外に3代目はいないのに…誰よりも、ぬらりひょんさまの血を継いでいるのに……
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