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「(遅い…)」
美瑠たちが死ぬ気で向かっているのも知らず、僕は生徒全員が通るはずの校門の前で苛立ちも露に殺気を振りまいていた。
弱い草食動物たちが怯えようが腰を抜かそうが僕には関係ない。
今の僕に一番重要なのは…僕の唯一大切に思える女の子、美瑠と会うことなのだから。
正直、必要以上に怯える草食動物たちは煩わしいけど……
苛々を紛らわすように組んでいた腕を組みなおして、校門に背を預けた。
「(美瑠さん、早く来てくれ…!)」
「草壁」
「は、はい……」
「今、何時」
「……授業開始、5分前です」
「わかった」
「(委員長……お願いですから殺気だけは仕舞ってください…!)」
そんな草壁の叫びも僕に聞こえるはずなく、変わらず殺気が漏れたままだった。
…こんなにも苛々する原因は、美瑠が遅いっていうだけじゃない。
美瑠が遅刻するくらいじゃ僕だって怒らない。そこまで器量の狭い人間ではないはずだから。
僕が苛々するのは……美瑠が来るのを遅らせる、沢田綱吉達。
美瑠一人ならこんなに遅いわけがない。美瑠は責任感が強い子だから。
と、なると美瑠は一人ではないという可能性が高い。…いや、帰ってきてから一日しか経っていないことからきっと美瑠は沢田綱吉達に会ってからくるはず。
…僕の美瑠を巻き込むだなんて……許さないよ、沢田綱吉。
「あれが高校?」
「そうだよっ!」
「中学校と変わらないね!」
「確かになー」
「早く行かないとあと3分で………ひ、雲雀さん!」
聞こえてきた会話に校門から背を離して腕を組んだまま彼らと美瑠が来るのを待つ。
一番に気づいたのは沢田綱吉。彼の声で4人は様々な反応して足を止めた。
美瑠は心なしか申し訳なさそうだったけど、他の奴らはあからさまに「げっ」という顔。
失礼な奴らだ。別に君たちになんて用はないのに。
…まぁ、美瑠を遅刻させかけたことは確かに許せないけどね。
「きょ、恭弥…」
「やぁ、美瑠。遅い登校だね?」
「(殺気が出てるよ…恭弥……)」
苦笑した美瑠にトンファーを片手だけ取り出す。
もちろん、美瑠に向けるつもりは毛頭ない。それくらいなら自分を殴ったほうがましだ。
美瑠も自分ではなくその隣にいる沢田綱吉達にトンファーを向けることを察して、そっと彼らを庇うように一歩前に踏み出す。
…美瑠は、甘すぎるよ。彼らを庇う理由なんて何もないのに。
いや…あの赤ん坊の言う“ファミリー”とかいうやつ、かな。
「朝、ちょっとあってね…」
「ふぅん……じゃあ、その草食動物達は?」
「私が巻き込んでしまったの」
「……美瑠、ちょっと、」
「あっ!もう授業始まっちゃう!
恭弥、私達もう行かないと!あとで応接室行くね!!」
え、僕の言葉無視?
ぽかーんと思わず呆気にとられている間に美瑠は彼らと一緒に学校に入っていってしまった。
残されたのは僕と……哀れな草壁だけ。
心なしか寂しい風が吹き抜けたが、僕は小さく俯いてクスクスと笑いを零す。
草壁が「あぁ、今日から病院か…」と覚悟していることも知らずに。
「いい度胸だよ……美瑠」
イタリアに戻って美瑠の器がまた大きくなった気がした。
いや…器というより懐、かな。どちらかというとね。
僕の言葉を無視するなんて…後で覚悟しててよ?美瑠……後悔しても遅いんだからね?
ニヤリ、と自分でもわかるくらい凶悪な笑みを浮かべて僕は学ランを翻し、学校の中に戻る。
その姿に草壁が心底ホッとして歓喜していたことを知っていたら、咬み殺していたのに。
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