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ふわり、と心地のいい優しい風が頬を撫でてゆっくり目を開ける。
広がる景色にパチリ、と目を丸くしたけど…心は何となく納得していた。

無意識のうちに“ここ”に来ちゃうなんて……現金だなぁ、私。



「…珍しいですね、美瑠自ら来てくれるなんて」

「そうかな……骸」



クフフ、と独特な笑い方を漏らしながら木の陰から出てくる骸を振り向く。

一枚のカッターシャツに黒いズボンのラフな格好。
相変わらずスタイルがよくて…、そのスタイルのよさに恭弥を思い出して。

また泣きたくなったけど、骸が心配するから恭弥の顔を頭から消し去る。…そうじゃないと、泣いてしまいそうだった。

久しぶりに会った骸に小さく微笑むと少しだけ辛そうに顔を歪められた。



「骸…?」

「泣いたのですか?」



そっと私の涙の跡をなぞるように頬に手を当てて親指で頬を撫でられる。
疑問形で聞いていても語尾は強くて、まるで否定は許さないとばかり。

それが骸の優しさだとわかっていたから苦笑してコクリ、と頷いた。
肯定を強制したのに、私の返事にまた哀しげに瞳を揺らすからさらに苦笑。

そんな顔…させたくなかったのに。



「…雲雀恭弥ですね」

「違うよ」

「え…?それは、」

「骸……私、自分がこんなに醜い人間だなんて…今まで気づかなかった」



骸の言葉をわざと切らせてそっと目を瞑りながら呟く。

胸に手を当てれば自分の心臓の音が聞こえてきた。…痛みなんて、知らないみたいに。

心は……こんなにも、悲鳴をあげているにも拘わらず。
“心”なんて臓器が存在しないことなんて、知っているのに。
どうして…人は哀しかったり、切なくなったりすると“ここ”が痛くなるんだろう。



「歌愛ちゃんが嫌い……恭弥の好きな子、なんて…嫌い。
そんな……自己中心的なこと、思うなんて…っ」

「ちょっと待って下さい!恭弥の好きな子、とは一体…」

「……別れたの、恭弥と」

「ま、さか…」

「そのまさか。私がイタリアに行っている間に、好きな子ができたみたい」



あぁ、なんて嫌な言い方。最低。
これじゃ、まるで恭弥が悪いみたい。…恭弥は悪くないのに。

自嘲とも言える笑みを浮かべればまた目が潤んでいく。

…こんなに、私弱い人間だったかな……簡単に泣くなんて。こんなの、私じゃない。



「ごめん!何か、嫌な言い方だったね。
兎に角ね、私今寂しい独り身になりました!なーんて「美瑠」…!」



ぎゅっと突然体を抱き締められて言葉を失う。

まるで、骸は何も言うなっていうように抱き締めるから……



「…あなたは、綺麗ですよ。どこまでも、綺麗すぎる心を持っている」

「違っ…」

「違いません。少なくても僕は美瑠が綺麗すぎて…眩しい。
いつも笑顔で、どんなに哀しくても強がる、そんないじらしさが…愛おしいんです」

「骸…」

「君は、綺麗だ」



そう微笑む骸に言葉が詰まってしまう。

骸は…優しすぎる。いつも…私の欲しい言葉を、くれる。
ごめんね…これじゃ、骸を利用しているみたいだね。

ごめんね……そう骸の胸に顔を埋めると優しく抱き締められた。



「美瑠」



さぁ、お泣きなさい。我慢することないんです。

ここは夢の中。僕以外誰もいない。
だから……いいんですよ、泣いても。強がる必要なんてないんです。

そう子守唄のように囁いた言葉が私の心の中にじんわりと染み込んでいく。
そうすれば、自然と涙がこみ上げてきて…声を殺して泣き始める。


骸の優しさが痛いほど嬉しくて、今も好きな恭弥を想って……

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