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「…あれ……」

「……っ」

「ここ……、…恭弥…?」

「気が、ついた?」



動揺で赤くなった顔を隠すために隣の給湯室へ行ってスポーツドリンクを取り出す。

…まだ、心臓がドキドキしてる……

落ち着け、とまた一つ息をついて、パタン、と冷蔵庫を閉めて応接室へ戻る。
美瑠はまだ頭がぼぉっとしているのか体を起こしたまま微動だにしていなかった。



「飲んで。今はいっぱい水分摂った方がいいから」

「…ありがとう」



スポーツドリンクを手渡すと美瑠はそれを素直に受け取った。
ぼぉっとしつつも本能的に水分がほしかったのかコクリ、コクリと飲んでいく。

これで大丈夫かな、と一安心して自分専用の椅子に座り書類に目を通す。

……といっても、美瑠がいるのが嬉しくて全然頭に入ってないけど。

冷静を装いながら書類に目を落としているふりをしていると恭弥、と名前を呼ばれる。
なんだか本当に呼ばれるのが久しぶりな気がして…美瑠に呼ばれると、その名前が特別のような気がした。

そっと書類から顔をあげて、美瑠を真っ直ぐ見つめた。



「何…?」

「私…もしかして、倒れた、の…?」

「…うん」

「……そっか…恭弥が、ここまで運んでくれたの?」



運んだだけじゃなくて口移しで水まで飲ませて…さっきまでキスしていた、とは言えず。
何もいわずにこくりと頷くと、恭弥、と美瑠が僕の名前を呼ぶ。

ん?と問いかければ……美瑠はニコッと、あの屈託のない笑顔で、笑ったんだ。

(久しぶりに見た…美瑠の笑顔)



「ありがとう」

「…うん」



どうしてうん、しか答えられないんだ、と思うけど、いくら頭を回してもうん、しか出てこなくて。
ここで会話を終わらせたくない、と思っても話題が出てこない。

もっと…もっと美瑠と話したいのに。

昔みたいに、笑顔でたくさん話したいのに。


(こんな時、僕の性格がもどかしい)



「…前にも、」

「え…?」

「前にも、あったよね…こんなこと」



記憶に思いを馳せているのか、ぽつりと美瑠が懐かしそうに呟く。
意外にも美瑠から話しかけてくれて内心ホッとすると同時に嬉しくもあった。

まだ美瑠と話せるんだ、って。

でも美瑠の言葉にそういえば、と似たような記憶を探る。



「あの時は体育祭だったね」

「本当にびっくりしたよ……今日もだけど」

「ごめん…」

「…いいよ。心臓に悪いけどね?」



苦笑する美瑠にクスクスと自然と笑みが漏れた。

美瑠とすごす時間はこんなにも優しい……心から安らぐことができる。


―――美瑠だから………


僕は自分の机に、美瑠はソファーに座っているけど。

何故か隣に座っている時のような……心が、近いような気がした。

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