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「行くよ」

「はい」



まずは恭弥から先制攻撃。あぁ、あの頃とは違って力が強すぎる。ぶつかっただけで、腕がしびれてしまう。

…これが恭弥の本気。今まで私が向けてもらえなかった、本気の攻撃。

これは長期戦には絶対に持ち込めないな。終わらせるなら、一瞬だ。
できるだけ恭弥との接触プレーを避けながら、恭弥の攻撃を避けていく。

…避けるだけで精いっぱいで、攻撃に転じることもできない。



「…避けてるばかりじゃ、話にならないよ」

「えぇ、わかっています。今、解決策を考えているところです」

「考える暇があるなんて余裕だね」

「あ、いや、そうではなく、」



どうやら考えているという言葉が気に障ったらしく、恭弥の攻撃が先ほどよりさらに鋭くなる。
あぁ、火に油を注いでしまった、と後悔するけど遅い。
しかも鋭い上に重さがさらに加わって私も避けきれなくなってきていた。

ガンッ!と左からの攻撃に踏みとどまれず、そのまま吹き飛ばされてしまう。


体制を立て直そうと起き上がった瞬間、恭弥の体が私の目の前にきて、――恭弥のトンファーが振り上げられる。


あぁもうこれはダメだ。避けることも、受け止めることもできない。
諦めて恭弥の攻撃に耐えようと目を瞑ったが、…一向に痛みはやってこない。

あ、れ…どうして、と目をゆっくり開けると、…なぜか泣きそうな顔をして手を止める恭弥がいた。


――息が詰まりそうになった。

恭弥が記憶を失ってそんな表情を私に向けることは一瞬だってなかった。
まるで私を知っている恭弥が目の前にいるみたいで……

もしかして、記憶が戻ったの…?…今、目の前にいるのは、私の知っている恭弥なの…?

思わず恭弥、と彼の名前を呼びそうになっていると恭弥はゆっくりと手を降ろし、私に背を向けた。



「気が萎えた。…帰る」



行くよ、由里、と由里の名前を呼んだ瞬間に、目の前が再び真っ暗になった。


――そう、だよね……恭弥が記憶を取り戻したはず、ないよね……
何期待しているんだろう…記憶が戻るようなきっかけなんてなかった。それだってわかっているはずなのに……

無駄に期待して、希望をもって、…恭弥の名前を呼ぼうとするなんて……


バカ、みたいだ。


襲い掛かってくる息苦しさに、涙が出そうになって、慌ててぐっと目に力を入れる。
ダメだ、泣いちゃだめだ、勝手に期待した自分の失態なんだから、泣く必要なんてない。
俯いて流れだしそうな涙をこらえているとツナの心配そうな声が私にかけられる。



「姫、大丈夫!?」

「…ツナ…」

「もしかして泣いてる!?どっか痛い!?医療班すぐに来て!!」

「…あ…いや、そうじゃなくて、」


「――なんかあった?」

「…ッ!!」



妙に響いたツナの言葉に私は無意識に息をのんでいた。
恐る恐るツナの表情を見上げると…ツナはどこか傷ついたような、悲しげな表情を浮かべていた。

…こんなツナの顔、初めて見る…ううん、違う。今まできっとツナは私の知らないところで、こんな表情をしていたんだ。

私が恭弥を想うたびに、きっと。

今まで恭弥のことで沈んでいた私を明るさで救ってくれていたように思っていたけれど、本当は私の知らないところでたくさん傷つけて、…こんな悲しげな表情をさせていたんだ。
私が、知らなかっただけで……

何も言えずにいるとツナは無理やりこの空気を霧散させるように「医療班、よろしくね」と私から視線を外す。
医療班がストレッチャーに乗るように言ったけど、自分で歩けると断り、その場から歩き出す。

ツナに何も声をかけることもできずに……


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