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誰も知らないバーでウィスキーを一気に体に流し込み、イラつきを抑えることもできずにドンッと勢いよくカウンターに叩き付ける。
周りに他の客がいなくて助かった。…今のオレは恐らく殺気が駄々漏れだろうから。
ぐしゃりと乱暴に自分の髪を掴み、マスターにおかわりを頼む。
マスターはじっとオレを見つめると拭いていたグラスを静かに置いた。
「…やめとけ。お前酒が強くないんだから、」
「うるさい。今日は飲みたい気分なんだ」
「情けねぇ姿見せてんじゃねぇぞ、ツナ」
「…なんでここにいるんだよ、リボーン」
「マスター、ショット」
黙っていつものショットの準備をしはじめるマスター。
荒れるツナの隣に座るとレオンがちょこり、とカウンターに座り込んだ。
その喉をくすぐってやるとレオンは気持ちよさそうに目を細めた。
「姫の心を得られたと思っていたらやっぱり自分の勘違いだったと気づいてイラついてんのか。
それとも姫がいつまでも雲雀のことを引きずっていることにイラついてんのか。
…姫の心が雲雀にあるとわかっていても、やっぱり姫を諦められねぇことにイラついてんのか」
「……っ」
「全部図星か」
むっつりと黙り込むツナにため息をついて、オレはちょうど出されたショットを煽る。
黙って追加の意思を示すとマスターはすぐにショットを酒で満たしてくれた。
琥珀色の綺麗な色に今度は少しだけ飲んで、黙ってツナの言葉を待った。
「…オレ、姫を傷つけた。
雲雀さんのことを想う姫を見るたびに、傷ついていた自分の姿を見せてしまって……
…自分の覚悟の小ささに嫌気がさすよ。
雲雀さんのために流した涙をみた瞬間から、姫を守ろうって…いくら雲雀さんを想っていても構わないから、姫の心を守ろうって思っていたのに……
堪らんなかったんだ。姫が、雲雀さんの一挙一動に振り回されて、悲しげな顔をしたのが……
オレは、一生…雲雀さんに勝てないんじゃないか。姫の傍にずっといるのはオレなのに。
そう思ったら…姫の前では絶対に見せたくなかった嫉妬の顔をつい、出してしまって……
そんなオレの表情を見て、姫が泣きそうな顔をしたから、…オレ、泣かせないために傍にいたはずなのに、オレが姫を泣かせそうになったんだと思ったら…っくそっ…!!」
ツナは再び拳を握りしめて、目の前の酒を再び煽り始めた。
…こいつは、姫を傷つけてしまったことに一番イラついてんのか。
どこまでお人好しで…姫のことが好きなんだ。
姫に愛想をつかしたらいい。いつまでも昔の男の影を追いかけて、勝手に傷ついているんだから。
オレだったら姫に呆れてとっくの昔に手を離している。
それなのに、ツナは姫を傷つけたと自分を責めてやがる。
――本気、なのだろう。姫のことが。中学のときからずっと……
「…諦めねぇのか、姫のこと。不毛だぞ、この恋は」
答えはわかっていた。けれど、問わずにはいられなかった。
酒に口をつけながら、そう聞けばツナはフッと小さな自嘲を浮かべた。
「できたらとっくの昔にそうしてるよ」
そうだよな、できることならきっととっくの昔に諦めているだろう。
それができないから…苦しいんだよな、姫も、ツナも。
みんながみんな幸せになる方法があればいいのにな。
そんなことを考えながら一気に流し込んだ酒は、いつもより苦く感じた。
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