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佐藤姫。
それが沢田の彼女で、秘書の名前。


いつも無表情で、何事にも動じず、僕に対して堂々と話す唯一の女子。
…そして、時々悲しそうな顔で僕を見る、不思議な子。

最初はただの興味で近づいたけど、仕事の話をしているうちに、彼女の優秀さがすぐにわかった。
何事にも的確で、素早くて、交渉が鮮やかで…あぁこういう人材が財団にもほしいんだよね、なんて考える。

さすがボンゴレの秘書だ。優秀であることには間違いない。

しかも彼女は僕と同じトンファーを使って戦うらしい。この前のお遊びの時に知った。

強い眼差し。いつ、いかなる時も冷静な判断を下す頭脳。


――いいな、と思った。


彼女が傍にいれば退屈はしなさそうだ。

ボンゴレ本部に行くと書類に目を通しながら歩いてくる佐藤が目に入る。
考えていた人物が現れてちょうどいいとばかりに笑みを浮かべる。



「佐藤姫」

「…雲雀さん」



お疲れさまです、という佐藤の表情は相変わらず無表情だ。

この不愛想さは一体いつからなのだろうか。
そして、この無表情を壊してみたいという気持ちもある。



「今からどこに行くの?」

「この書類をツナに届けるところです」

「ちょうどいいね。僕も沢田に用があるんだ」



僕が歩き出せば佐藤も一歩ほど下がったところをついてくる。

書類に目を通したいのか、僕に視線を向けることなく、書類を黙々と読んでいる。
…歩きながら読むのだからどれだけ器用なんだ。それとも慣れなのか。



「よくこけないね」

「…あぁ、これですか。慣れたら簡単ですよ」

「君、沢田の秘書なんだろ。同じ部屋じゃないのかい?」

「私のデスクは二つありまして、ボスの部屋とボスの隣の部屋の秘書室にあるんです。
…この資料は資料室からとってきたものなんですよ。
資料室は離れているので、非効率だから近くにしてほしいと頼んだのですが、応接間などのことを考えるとどうしても移すことができないんですよね。
いっそのこと秘書室を潰すという考えを提案したんですが猛反対されて…ってこんな話興味ありませんよね、すいません」



すらすらと流れるように、単調に話す佐藤に少しだけあっけにとられる。

佐藤が話しているところを見ることは仕事以外であまりなかった。
仕事は交渉も含まれているから話せることは知っていたけど、こんなにも雑談できる人間だとは思わなかった。

…意外な面も見れて、面白いな。やっぱり僕を楽しませてくれそうだ。



「いや、興味深いよ。…秘書室の隣に小部屋がなかったかい?」

「あぁ、仮眠室ですね。徹夜に近くなることもあるので」

「使ってるの?」

「…そういえば頻度はそう多くはないですね。最近は特に」

「なら、ここ十年分の資料くらいはあの小さい部屋に入るんじゃない?」

「なるほど。今まで疎かになっていた資料の精選も同時にできそうです。一石二鳥ですね」



うん、と頷いた佐藤にやはり彼女は面白い、と再認識する。
僕の提案にメリットをさらに見出すとは。こういう機転が利くところがいいんだよね。

話していて飽きることがない。

そして面白いおもちゃを見つければほしいと思うのが人間だ。
僕は欲しいと思ったものに我慢なんてしない。


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