38.1



自分でも不思議だと、思う。


佐藤姫。


彼女のことを知れば知るほど…傍にいたいと思うのだから。

僕には由里がいるはずなのに。…どうして佐藤のことばかり気になってしまうのだろう。
今日だっていつもなら任務が終わったらすぐさま帰るはずなのに近くにあった店に入って佐藤への土産を考えている。

この前食べたケーキはラズベリーのケーキだった。もしかしてベリー系が好きなのかな。
なら、このケーキも喜んでくれるんじゃないかな。…うん、買って行こう。

そうだ、この前薦めたいと思った本も持っていってあげよう。きっと彼女の好みに合うはずだ。

そんなことを考えているうちに自然と笑みが浮かんでいたんだろう。
車を運転していた草壁が「恭さん、何かいいことでも?」なんて聞いてきたから、むかついて一発殴っておいた。



「…恭さん、このまま財団に戻ってもよろしいですか?」

「うん。…あぁでも、すぐに出るから車はそのままにしといて」

「…?どちらへ?」

「ボンゴレ」

「では、お供致しましょう」

「いや、いい。一人で行く」

「へい」



何も聞かずにいてくれる草壁はやはり長年僕の傍にいるだけある。
もし何をしに行くのか、と聞かれれば答えに窮していたことだろう。

…報告ついでに佐藤に会いに行こうと考えてるなんて口が裂けても言いたくない。

ケーキや本など彼女が好きそうなものを口実に会いに行くなんて……まるで僕が佐藤のこと、



「…っ」



ありえない。僕には由里という大切な人がいるんだ。
考えてしまった自分の想いを即座に否定し、まどろっこしいとばかりに思考を放棄する。

財団に着くと草壁から車の鍵をもらい、自分の部屋へと向かう。

確かあの本は僕の書斎の上から二段目にあったはずだ。
本の位置を頭の中で確認しながら歩いていると後ろから「恭弥!」と声をかけられる。

僕のことを恭弥と呼ぶ人間は一人しかいない。

足を止めてゆっくり振り向けば、満面の笑みの由里が走ってきていた。


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