38.2
「おかえりなさい、恭弥!今日は早いね」
「うん。…でもすぐに出ないといけないんだ」
「え…そうなの?」
「本を取りに来ただけだからね」
「そっか…夜は?帰ってこれない?久しぶりに恭弥とご飯食べたい」
「……まだわからないな」
嘘だ。ただ佐藤に本を渡すだけならすぐに終わって帰ってこれる。
わかっているはずなのに、なぜか由里に縛られるのが嫌で咄嗟に「わからない」と誤魔化した。
僕の嘘に気付いていないようで、由里は「そっか…」と肩を落とした。
「…お仕事だもの、仕方ないね…わかった。気を付けてね」
「うん。できるだけ、早く帰ってくるから」
「嬉しい。待ってるね」
じゃあ行くから、と背を向けようとしたが、由里に腕を掴まれる。
何、と再び振り向くと由里は目を瞑っていた。…キス、してほしいとばかりに。
数年前の僕なら躊躇なくキスしていただろう。二回でも、何度でも。
でも、今の僕はキスしたいという気持ちにはなれなくて、ぽんぽんと由里の頭を撫でた。
「急ぐから」
目を開けて涙ぐむ由里の気持ちは言わなくてもわかった。
何故。ただその一言だろう。
何故、キスしてくれないのか。いつもならしてくれるのに。そういいたいのだろう。
でも、僕はそんなの聞きたくなくて、由里から手を離すとすぐさま部屋へと入っていく。
そして目的の本をすぐに見つけ出すと部屋から出て、まだ立ちすくむ由里の隣を歩いていった。
…我ながら冷たい彼氏だ。だけど、したい気分じゃなかったのだから仕方がない。
少しだけ後味悪く感じながら、僕は車に乗り込み、ボンゴレへと向かって走り出した。
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