39.1



最近、無性に怖くなる。


仕事熱心な姫が書類に目を通している姿を横目で見ながらそっと目を細める。

姫はいつか、雲雀さんのところに戻っちゃうんじゃないかな。

さっきだってそうだ。
雲雀さんと姫の間に昔の絆はないはずなのに、姫の好きな本を持ってきて、姫の笑顔を簡単に引き出していた。

…ずるい。
雲雀さんは、ずるい。なんで、忘れてるのに、…オレの方が傍にいるはずなのに。

雲雀さんは…姫のこと……もしかして…―――



「…ツナ?」

「…っ、あ、うん、何?」

「大丈夫?…泣きそう、だよ?」

「え…」



姫の言葉に驚いた途端、ぽろり、と無意識に自分の目から涙が零れていた。

何で、とか、どうして、とか、言葉がたくさん浮かんだけど、言葉にはできなくて。
ごめん、と言って涙を拭い、姫から視線を外すけど、中々涙は止まってくれない。

かっこ悪、と再び呟くと、優しく姫がオレの体を抱きしめてくれる。

その温かさと優しさに自然と涙は止まり、そっと目を瞑り、その温かさをかみしめる。

…そっか…不安、だったのか。姫がオレの傍からいなくなるんじゃないかって……
それに…こんなにも、オレにとって姫は必要で…大切なんだ。

最初の頃は、姫が笑ってくれたら、とか、雲雀さんのことで傷ついてほしくない、とか。
姫を傍で守ることができたら…雲雀さんを忘れろとは言わないから、傍にいてくれたら……

ただ、それだけだった。

でも、姫が傍にいて、ずっと、隣にいてくれて、…笑ったりとか、手を繋いだりする中で、…もっと、って。


雲雀さんのところに行かないで。オレを好きになって。…傍にいて。

そんな気持ちが強くなって………



「…大丈夫?」

「うん。…ごめん、突然」

「ううん」



姫は気付いているのだろうか、オレの気持ちに。
…だから、何も聞かないのだろうか。

でも、姫を縛ることはできない。…同情なんかで傍にいてほしくない。

姫にはいつだって本当の気持ちを大切にしてほしい。
…いや、違うな。こんなのただの言い訳だ。姫の気持ちを言い訳にして、オレは傷つくことから逃げているんだ。

オレは……



「もう大丈夫。ありがとう、姫」

「…うん。…私…、これを獄寺君のところに持っていってくるね」

「あ…うん。よろしくね」



行ってきます、と言って部屋を出ていく姫の背中をじっと見つめる。

どうしようもない気持ちを抱えながら……


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