10.5
ざくり、とナイフは私の腕をかすったが、その瞬間にその不良は恭弥のトンファーの餌食になっていた。
ばたりと倒れた不良を見ながら怪我した腕を押さえていると恭弥がすごい剣幕でこちらに走ってきた。
「姫!!!」
「…あ、」
―――ぱしんっ……
そんな小気味いい音がその場に響き渡る。
…叩かれた。恭弥に、頬を。そのことが一番のショックで私は呆然と叩いた恭弥の顔を見つめた。
恭弥はすごく、すごく哀しそうな顔をして、私に怒っていた。
「姫っ…なんで出てきたんだ!!」
「だって!!だってっ…」
「待って、動かないで!!止血、しないとっ…!」
びりびり、と恭弥は自分のパーカーを引き裂いて切られたところより少し上の部分でぎゅっときついくらいで結ばれる。
切られて、痛いはずなのに全然痛くなくて。むしろ、恭弥に叩かれた頬の方が、100倍も痛くて。
泣きたいはずの私の心は、麻痺したように泣いてくれなくて、こんなときまで無感情な私に腹が立った。
その怒りに反応したように空からぽつぽつと雨が降ってきて、次第に雨足は強くなっていく。
それでも私たちはその場を動くことができず、ただ黙って恭弥が止血してくれているのを見つめていた。
何も言わない私に止血し終わった恭弥はぎゅうっと私を痛いくらいに抱きしめた。
「…姫を、失うかと、思った」
「……私も、だよ」
「姫…?」
「私も、恭弥にナイフを向けられた瞬間、恭弥を…失ってしまうかもって、思って…っ」
そんなの、嫌だ、とその時自然と涙がぽろり、とこぼれた。
さっきまでは全然出なかった涙が今になってあふれて、雨と一緒に恭弥のシャツをぬらしていく。
小さく泣き出した私に抱きしめる力を少しだけ緩めた恭弥は顔を私の肩に押し付けた。
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