2.1



その日から、私の日課は少しだけ変化を遂げた。

やっぱり少し字の大きい小説を持って並盛公園にいき、恐がる同年代の子たちの隣を静かに通り過ぎ、お気に入りの木の下まで歩いていく。
いつもなら何も言わずに黙ってそのベンチに座って本を読み始めるのだが……



「やあ」

「…こんにちは」



先客…この前の彼が先にそこに座っていて、挨拶してから一人分をあけてベンチの右側に座る。
私はここで本を読むことが日課になっているのだが、彼は大体、この私が来た後このベンチで静かに寝ていることが多い。
寝ているのに微動だにしない彼の寝相に最初は感心したものだが、今となっては慣れてしまって静かな寝息を聴きながら私の読書は進んでいく。
静かな空間は以前と変わらない…けれど、確実に一人私の隣にいて、以前とは違う状況になっている。

その状況は私にとって少しだけ面白いものだった。

同年代の子はみんな私を恐がって近づいてこないのに、この子だけはこうやって隣に座ってくれる。
特に多く言葉を交わすこともないけれど、彼は毎日私が来る前にここにいて、私を待ってくれている。
私が恐くないのかな、と幼心に思ったこともあったが、何となく彼は「どうしてぼくがきみをこわがらないといけないの?」と言うような気がしたので聞くのをやめたのは記憶に新しい。

少し日が沈み始めて、肌寒くなってきたから今日はこれで読書はおしまい。
しおりをはさんでぱたん、と本を閉じると同時に彼もぱちりと目を覚まして大きな欠伸を一つ。



「おはよう」

「…ん」



まだ少し眠そうな彼を見ながら私は帰る準備をして何も言わずにベンチを立つ。
あまり帰りが遅いと両親が心配してしまう。
両親は私のこの無感情さに気味悪がりながらもやはり血のつながりは消せないのか帰りが遅いと心配してくれるのだ。
母親はあまり私に話しかけないが、どうしてか私の好きなもの、嫌いなものは知っていて(ちなみに私の好きなものはハンバーグ、嫌いなものはにんじん)時々にんじんをすってハンバーグに入れているらしい。
そういうところから私は母親の愛情を感じることができていたので、私は母を嫌いになることもなかった。


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