2.2



今日もまた何も言わずに各々帰ろうとしようとした、が。



「ねぇ」



初めて、帰るときに呼び止められた。

実は一緒にいるようになったが、彼の名前は知らない。…いまさらだけど。
名前を呼ぶこともないし、話さないし、名前を知る意味はないと思っていたから私から尋ねることもなかった。
呼び止められて無視する理由もないから何も言わずに振り返って彼の顔を見返す。
夕日に照らされて彼の黒い髪が少し赤黒くみえたが、それもなぜかとても綺麗に見えた。



「ぼくは雲雀恭弥。きみは?」

「…佐藤姫」



いまさらながら自己紹介。

ひばりきょうや。これが彼の名前。たしか、ひばりって鳥の名前だった気がする。
きょう、や…きょうや。なんだか、かっこいい…かっこいいなんてありきたりな言葉だけど、それしか浮かばなかった。

ぼそり、と呟いた私の名前に恭弥は少しだけ嬉しそうに…どこか満足そうに笑った。



「姫。また、あしたね」



“また、あした”


そういわれたのも、自分の名前を呼ばれたのも、初めてだった。
自分の名前を呼んでくれる人は今まで誰もいなかった。両親でさえ、呼ばれた記憶がなかった。

また明日。それは明日も会おうね、っていう約束でもある。

私に会う約束をしてくれる人も誰もいなくて…もしかして、これが“友達”というものなのかな、って思ったら胸の中が少し熱くなった。
あぁ、これがもしかして…嬉しい、って感情なのかな、って冷静に判断しながらも、でも、嬉しい気持ちは抑え切れなくて、その時初めて―――私は小さく、笑うことができたんだ。
初めてだったからとってもぎこちなかったように思う。というか、笑っていたのかさえ怪しいほどだ。
でも、恭弥がとってもびっくりしたように目を丸くしていたからきっと笑っていたんじゃないかって思う。




「…また、あした」




かろうじて搾り出せた声は恭弥に届いていたかな。
慣れていない言葉に震えそうになったけど、一生懸命その言葉を伝えたくて、言葉にした。

恭弥、私はそのときからきっとあなたのことが好きだったのかもしれない。
恋愛感情を抜きにしたとしても、初めて私の“友達”になってくれたあなたには特別な感情が必ずあった。

それから私たちは毎日あのベンチで会って、多くの言葉は交わさなかったけれど、一緒の時間をすごした。
あのときの私は思考は大人びていたかもしれないけれど、やっぱり子どもで、現実をわかっていなくて。


大好きで、大好きで…ずっとずっと、一緒にいれるって信じていた。


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