15.2



「恭弥くんと、離れたくないのね?」

「……っ、けど、」

「けど、じゃないわ。あなたの気持ちを聞いているのよ、姫」

「…私の、気持ち…」

「そうよ。あなたの素直な気持ちを聞きたいの」




どうしたいの?


初めてそう母親に聞かれたような気がした。
いつも、私は自分の気持ちを言うのが苦手だったし、それを聞かれたこともなかったから何もないふりをしていた。

けど、どうしてか今回に限って母は私の気持ちを尊重するように聞いてきた。
…どうしたいのか。母や父の気持ちを考えず、自分の気持ちだけを言うのだとしたら……




「……たい。…ここに、いたい」




並盛に…恭弥の側にいたい。それが私の素直な気持ちだった。

初めて自分の意思を伝えると母は少しだけ悲しそうに、でもどこか嬉しそうに微笑んだ。


そう、わかったわ。


その一言を言って母は台所に行ってしまったので、私は結局どうしたらよいのかわからなかった。
結論はどうなったのだろう、と思っていると台所から母の声だけが聞こえてきた。




「あなたはここに残りなさい。家に一人だけど、あなたなら大丈夫よね」

「…お母さん」

「一人でアメリカに行くわ」




聞こえてきたお母さんの声は少しだけ涙に濡れていたように思う。…いや、きっとお母さんは泣いていたのだろう。
私は肉親である母ではなく、たった一人の幼馴染を取ったのだから。

ごめんなさい。お母さんが嫌いなんじゃないんだよ。

そういいたかったけど、それを言ってはいけない気もして結局気づかなかったふりをする。
家の家具は全部ここに置いて、あっちで新しいものを買うらしい。
明日一足早くアメリカに行って色々な手続きをしてくる、と言った母に「私も行く」と言った。
私の言葉に一瞬だけびっくりしたような母だったがもう一度「私も、行きたい」と言うとしばらくして「わかったわ。一週間だけよ」と言われた。

一週間だけ。それでもいい。

こんな私を婉曲的だけど大切に育ててくれた母を悲しませてしまったのだからせめてあちらに行く準備くらいは私も手伝いたかった。
その気持ちが伝わったのかはわからないが、母はやっぱり小さく悲しそうに笑ったのだった。


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