18.5



「ねぇ」

「はい」

「さっきの子を呼んで」

「!わかりました」




座っていた医者は病室の前で待っていたあの子を再び病室に招き入れた。
何のつもりなのかはわからないが、あの医者は「これで失礼します」といってこの病室から出て行き、彼女と二人っきりになってしまう。

…何から話していいのか……もし、彼女が僕にとって大切な人なら、僕が忘れていることをいってしまったら悲しむだろうか。

真っ直ぐと僕を見つめてくる彼女に僕も応えるようにして真っ直ぐ見つめ返した。




「傷つかないで、聞いてくれる?」

「は、はい…」

「僕は、一部記憶喪失になっているみたいなんだ」

「え…!?」

「僕は君のことを思い出せない。…君は、僕にとって、何?」




真っ直ぐ見つめながらそう問いかけると彼女は迷ったように視線をさまよわせた。

…その反応は、言うのを躊躇っているの?躊躇うほど、君と僕は深い仲だったの?
それすら覚えていない僕は、一体君にどう接していたのだろう……

彼女は少しだけ逡巡したあと、意を決したように目を伏せてから僕を再びまっすぐ見つめた。




「信じられないかもしれませんが、私はあなたにとって…彼女、でした」

「……!」

「私の名前は、北條由里です。…その名前も、覚えていませんか?」




縋るような目をして、彼女…北條由里はそう聞いてきた。

彼女…この僕が、付き合っていた?この子と?

その名前に聞き覚えはないし、すっぽりと記憶が抜けてしまっている。…けど、絶対に僕には大切な子がいたことだけは、確か。



『―――も可愛いよ』

『いざって時は大人しく守られてね』





この言葉を、誰かにいった気がするんだ。誰だったかは思い出せないけれど……、もしかして、その相手が、この子なの?
思い出せなくて、混乱していく頭に眉を顰めていると彼女、由里は僕を包み込むようにして抱きしめてくれた。




「…無理に思い出そうとしなくても、いいんです。
私は、忘れられたとしてもあなたが好きな気持ちは変わらないから…」

「……由里」

「…っ」




何ですか、雲雀さん。


そう泣き声混じりで返してきた由里にあぁこの子なのかも、と少しだけ思った。
忘れてしまっているけれど、この子を大切にしたいと思ったんだ。…泣かせてしまった分、ちゃんと。

抱きしめてくれる由里に僕も軽く抱きしめ返しただのった。


(ぬくもりの違いに気付くことなく)


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