19.1



きっと私のことを10人が10人、間違いなく最低の女だと思うだろう。
…そんなの、私が一番よくわかっているから。




「今日も来てくれたんだね」

「当たり前だよ!」




にっこり笑うと雲雀さんはとても穏やかな笑みを私に向けてくれる。
それが幸せで、今までだったら考えもつかなくて、嬉しくて嬉しくてたまらなくて。
お花のお水かえてくるね、と言って病室を出てこれまでのことを思い出していた。

―――事故にあって、雲雀さんは本当の大切な人…姫ちゃんの記憶を失っていた。

記憶を失ったという不安があったせいか、雲雀さんは付き添いで側にいた私を「大切な人」と勘違いした。
いや、雲雀さんが勝手に勘違いしたわけじゃない。…勘違いさせたのは、私。
私が「彼女だった」なんて嘘をついたから、姫ちゃんを大切にしていた思い出がすべて私に成り代わってしまったのだ。

そのことに罪悪感がないといったら嘘になる。

やっぱり姫ちゃんに成り代わっていることは罪悪感でいっぱいになるし、雲雀さんに嘘をついていることも心が痛む。
けど、あの時もし「ただの発見者」とだけ言ってしまったら私と雲雀さんの関係は変わらないんじゃないかって思った。
ずっとずっと、平行線だった私たちが交わるためにはどこかで無茶をして捻じ曲げる必要があったんだ。
そのきっかけがこの事故と記憶喪失だっただけであって、仕方がないのだ。
そう開き直ってしまっている部分も、実際ある。

今は姫ちゃんもまだ帰ってきていなくて、もし雲雀さんのことを聞きつけて雲雀さんと姫ちゃんが出会ってしまったら雲雀さんは思い出してしまうかもしれない。
私が嘘をついていたってバレてしまうかもしれない。

…でも、それでもよかった。

今のこの甘い関係性がたった一時的なものであったとしても、私はそれで幸せだと思った。
確かにこのまま姫ちゃんが帰ってこなければいいと思う心もあるが、姫ちゃんが今日帰ってきてしまうことは雲雀さんの話を盗み聞きして知っていた。


―――こうやって笑いかけてくれるのは今日で最後かもしれない。

そう思ったら哀しくて哀しくて、涙が溢れ出してしまったがすぐに手でぬぐって消し去る。

いけない。雲雀さんの前ではなんでもない顔をしていないと……

ぱしり、と自分の頬を軽く叩いて私は気合を入れて病室へと帰っていった。


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