19.4



恭弥はかすり傷があったのか、頬にガーゼが張ってあり、頭には包帯が巻いてあったがそれ以外に外傷は見当たらなかった。

よかった、そんなに酷い怪我じゃなさそう……


そうホッとしていると次に視界に入ったのは―――同じクラスの由里。

どうして由里がここに…それに、この状況だとさっきの笑い声は、由里の笑い声ということになってしまう。

その事実に驚いていると鋭い殺気が私に飛んできて、とっさに恭弥のほうに再び視線を向ける。




「…君、誰?」

「え……」

「ここが僕の病室ってわかって入ってきてるの?いい度胸だね」

「何……言って…っ」




何、恭弥はいったい私に、何を言っているの?“誰?”って、どういうこと?


私が―――誰か、わからない、の?


指先からどんどん冷たくなって、心臓が震えるのがわかった。
冗談なんかじゃない。恭弥は冗談なんか言わない。…本気で、私のことをわかっていない。


恭弥の中に、私はいないんだ。


その事実を恭弥の鋭い殺気と共に押し付けられたようで私は固まった身体を必死で動かして何もいわずに病室から飛び出した。

どうして、どうして、どうして、どうして…!!!

そんなことばかりが頭の中をいっぱいにしていて、どこかもわからず私は走っていた。
ずっとずっと走り続けて…どうしてか無意識に足が止まった場所でようやく私の意識も戻ってくる。

私…いったいどこまで走って……―――


そうあたりを見渡して、驚愕した。

並盛公園の小さなベンチの前。私と恭弥がはじめて出会い…仲良くなれた場所。
無意識のうちに恭弥との接点を求めている自分の意識に驚き、失望までした。
今は少し頭が冷えて冷静に物事を見ることができるが、恭弥のあの様子だと私のことを忘れているみたい…恐らく、事故の後遺症。

そうなると恭弥が思い出す確率は低いのではないのか?

医学にあまり詳しくないから簡単に結論は今出せないけれど、事故の後遺症で記憶喪失になるということは同じくらいの衝撃を受けないと思い出さないだろう。
ふとした瞬間に全てを思い出すということは稀ではなかっただろうか。

…この辺は本を読まないとわからないこと、だけど…こんなときに恭弥の面影を探すなんて…しかも無意識に。

そんな自分に呆れたが、…少しだけ自分に甘い部分が「仕方ないんじゃない?」と言ってくれる。


恭弥は私の幼馴染で、…好きな人、だから。特別な人。

隣にいるのが当たり前で、話すことが当たり前だったのに、急にそれが当たり前ではなくなってしまった。
隣にいるのは私じゃない、話すのも私じゃない。…幼馴染であることを忘れられてしまった。



その事実だけが全て。




「…は……」




ショックなのに、…ショックすぎたのかやっぱり感情なんてなかったのか私からは一滴の涙も出ない。
こんなときに泣くことができたのなら、もう少し気持ちの整理がうまくついていたのかな。

恭弥が側にいない世界なんて私にとっては意味のないものなのに……



あなたがいない世界の色は、ただのモノクロでしかないよ―――恭弥……


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