21.3
「やあ」
「ツナ、姫ちゃん…」
「…雲雀さん、由里…」
風紀のショバ代を徴収中の雲雀さんと、浴衣姿の由里だった。
雲雀さんは相変わらずの無表情で俺たちを見つめていたが、由里は気まずそうにこちらから視線を外していた。
姫を少しだけ横目で確認したが、姫も雲雀さんと同じで無表情を貫いていた。
雲雀さんは俺じゃなくて姫をちらりと見やったが何も言わずにその屋台に5万を請求する。
その様子を姫は微かに懐かしそうに見やると何も言わずにその場から去って行った。
俺も何も言わずに姫を追いかけて、その隣に並んで歩く。…何も、いうことができなくて。
どう声をかけたらいいのかわからずそのまま足を進めていくと、穴場への森へ入っていく。
人気も少ないこの場所を俺たちは無言で歩いていた。
「…どうして、こんな風になっちゃったんだろうね」
「姫…」
「私、恭弥の隣は…ずっと私だって、勝手に思ってた」
そんなはずないのにね、と姫はすごくつらそうに無理に笑っていた。
見ているのが、痛々しいくらいに……
こっちまで辛くなって、思わず俺の手が姫の腕をつかんでその体を抱きしめていた。
どうしてこの子は、自分一人で抱え込んでしまうんだろう。こんなにもつらい痛みのはずなのに……
「泣いて、いいんだよ」
「…!」
「辛い時は、泣いていいんだ。ちゃんと、傍にいるから…」
「…っ、ふっ…う…!」
――――恭弥
そう小さく呟いた名前には大きな悲しみと痛みが込められていて。
微かに濡れてきた肩に俺はただ姫をなだめるように頭を撫でてあげることしかできなかった。
…姫は、いつだって泣かなかった。
雲雀さんと離れてしまったときも、さっきだって雲雀さんと会って存在を無視されても…いつだって。
あの雲雀さんが、姫のことを大切だといった雲雀さんがどうしてそんな態度をとるのかなんて理由は知らない。
同時に今まで姫の居場所であった雲雀さんの隣に由里がいる理由も。
それでも姫は悲しさを一人で抱え込んで泣かないから、こっちまで辛くなる。
―――――ヒュー…ドンッ!
そんな花火の音が鳴り響いて姫が軽く頭をあげて、俺を見つめる。
まだ目には涙がたまっていて、それを軽く親指の腹でぬぐってやると姫は少しだけ恥ずかしそうにうつむいた。
「…ありがとう、ツナ」
「ううん。…花火、始まっちゃったね」
「うん…」
「……ここで、しばらく見てよっか」
「…うん…」
離れた体温が少しだけさびしかったから。
…もう少しだけ、二人きりでいたかったから。
二人は何も言わずにその場で華やかに、儚く散っていく花火をずっと見続けていた。
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