22.2



「…雲雀さんは、記憶がないの」

「え…」

「この言い方だと語弊があるかな…姫ちゃんのことだけ、忘れているの」



言葉がでなかった。…なんていえばいいのか、わからなくて。
雲雀さんが記憶喪失?しかも姫のことだけ忘れている?雲雀さんにとって一番大切な人の記憶が?
姫はそれを知っているのか?いや、知らずに雲雀さんから離れた可能性は低い。もしかして雲雀さんに記憶がないことを知り、自分の居場所がなくなったと考えた…?

そう思うとつじつまが合う。記憶がない雲雀さんの隣にいたのは由里。由里を姫の存在と間違えた雲雀さんは当然姫を知らない人間として冷たく接するだろう。
その態度から姫の居場所がなくなったと、考えて雲雀さんから何も言わず離れていったのだとしたら……



「…どうして、こんな風になっちゃったんだろうね」



あの花火の時の言葉…姫は雲雀さんの記憶喪失を知っていてああいったんだ。

―――自分の大切な人から自分の記憶がなくなることが、どれだけ辛いことなのか。

どれだけの悲しみをあの子は一人で背負って、強く生きているんだろう。
姫のことを考えたら、由里の言葉に「そうなんだ」としか答えることができなかった。



「…ずるいって思ってる?私のこと」

「え?」

「姫ちゃんのことを忘れている雲雀さんの隣を占領する私のことを、ずるいって思ってる?」

「…それ、は……」



正直、言葉に詰まった。

ずるいという気持ちがないわけではないが、由里のことを責めるつもりもない。
もし俺が同じ立場なら俺も由里のようにしていたかもしれないし……好きな人の傍にいたいって気持ちはすごくわかる。

…それが例え世間一般でいう卑怯なやり方でも。

何も言わない俺に由里は小さく自嘲的に笑うと「愚問だったね」とつぶやいた。



「でも、姫ちゃんにも雲雀さんにも本当のこと、いうつもりはないよ。
何と言われようと…雲雀さんの隣を、簡単に渡したくないから」



そう言い切った由里の横顔はどこか凛としていて、俺にはない覚悟を秘めていた。
そんな由里に俺はやっぱり何も言うことができなくて、小さくうなずいてから由里から離れる。

由里があの覚悟を決めているのなら…俺も、覚悟を決めよう。

雲雀さんのことを忘れられない姫の隣にどんなことがあろうといるという覚悟を……


(それはきっとつらいことだろうけれど、そう、決めたんだ)

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