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「リボーンくん、お願いがあるの」
くるりとかわいく巻き上げられたもみあげを揺らして、リボーンくんは私を見上げる。
真っ黒な瞳が無感情にも私を見つめていたので、私もしっかりと見つめ返した。
きっと、リボーンくんは私が来ることをわかっていたはずだ。
ツナが、私を連れて行きたいと言ったのだから。
リボーンくんの視線に合わせるために、そっとしゃがみこむがリボーンくんは私から一切目を離さない。
「私を、鍛えてほしいの」
「お前には草壁がいるだろ」
「草壁くんには感謝してる。…でも、草壁くんじゃ限界があるの。
マフィアはプロ。その辺の不良から身を守るのとでは訳が違う。…足手まといにだけはなりたくないの」
対抗したり、勝ちたいわけじゃない。
ただ、危険が及んだ時に自分の身くらい自分で守れるようになりたい。
ツナの傍にいるには、それくらいの護身術を知っておきたいんだ。
「オレは厳しいぞ」
「覚悟してる」
「…本当、ダメツナにはもったいねぇな」
小さくため息をついたかと思うと、リボーンくんはニッと私に笑いかける。
明日、10時、並盛神社に集合だ、と伝えられて明日から訓練が始まることを悟る。
ありがとう、とゆっくり頭をさげると「礼は訓練で返せ」と言われてしまい、小さく苦笑した。
さすがリボーンくん。もうここから訓練が始まっているようだ。
はい、とうなずくとリボーン君は満足そうに笑ってその場から姿を消した。
その場に残るのは、静寂のみ。
サァァと静かに木の葉が舞い上がり、空を見上げた瞬間、昨日のことが頭をよぎる。
―――ツナは、こんな私を好きだと言ってくれた。
未練がましくも恭弥のことを忘れることができず、…好きだと言ってくれたツナに応えることができなかった。
そして、ツナはそんな私の心をすべて見透かしていた。
“ただ……彼女として、傍にいてほしいんだ。…傍にいるだけで、いいんだ”
なんて、…なんて、優しい言葉だと胸が苦しくなった。
忘れろ。オレを見ろ。そんなことは一言もなかった。
ただ、ツナは私に「傍にいてほしい」と言ってくれた。
優しくて、…縋りつきたくなった。
でも、それではだめだと思ったから、ツナに「私も好き」とは言わなかった。
…これも、恭弥から逃げているのかな……、少しだけ自分を嘲笑った。
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