1
「ちゃおっス」
「よろしくお願いします」
あれから一か月が経った。
最初は基礎体力をつける訓練から始まり、今ではリボーンくん相手に戦闘訓練に入っていた。
リボーンくんの強さの底は全く見えず、いつだって遊ばれているように感じる。
それくらい強くて、私は一生この人の戦闘能力に追いつけることはないだろう、と思った。
それでも精一杯訓練についていき、今では少しだけ私ももつようになった。
「…ずいぶん成長したな」
「師匠のおかげです」
「いいこと言うじゃねぇか。ツナにも見習ってほしいな」
「言葉に出さないだけで、心の中では思っていると思いますよ」
「そうだといいがな」
肩をすくめるリボーンくんに小さく笑うと、いつものように持ってきたエスプレッソが入ったタンブラーを差し出す。
ある日、私がコーヒーの好きなリボーンくんのために水筒に入れてきたことがある。
そのコーヒーがおいしかったから毎日持って来いと言われたことは記憶に新しい。
サンキューとニヒルに笑う彼は本当にたった2歳とは思えない。
いつぞやか「オレはもともと大人だったんだ」と聞いたことがあったが、あながち嘘ではないのではないかと思う。
本当においしそうにエスプレッソを飲むリボーンくんの隣に座り込むと、私ももう一本のタンブラーを取り出した。
体は温かいのだが、それでも温かい飲み物を飲むとこの寒い季節にはホッとする。
「Che si tratti Continuare in Italia per studiare?(どうだ、イタリア語の勉強も進んでるか)」
「Si. Ora la conversazione quotidiana di qualcosa potrebbe.(うん。今のところ日常会話くらいは何とかできそう)」
「Se sei bravo.(ならいい)」
ニッと笑うリボーンくんに私も小さくうなずく。
私がリボーンくんに課された課題は二つ。
1つは身の危険を感じたときに自分で対応できるくらいの戦闘能力をつけること。
もう1つはイタリアに行ってもすぐに対応できるようにイタリア語をマスターすること。
ツナもイタリア語を勉強しているらしいが、どうもその進行具合はよろしくないらしい。
現地に行ってたたき上げないと無理だと判断したリボーンくんは、どうやら傍にいることが多くなるであろう私にイタリア語をマスターさせて、通訳代わりにしようと考えたらしい。
それは構わないし、むしろ役に立てることがあれば是非したい。
もともと外国語を勉強することは好きだったので、簡単な会話くらい話せるようになるのに時間はいらなかった。
「来月、イタリアに一度行くことになった。お前も行くだろ?」
「何をしにイタリアへ?」
「下見だ。あと、ツナの継承式の準備もかねてな」
「それなら行きます」
「準備しておけ」
「はい」
どんどん現実に近づいてくるイタリア行き。
少しずつではあるけど、恭弥から離れている感覚も薄れてきている。
…こうやって少しずつ、前に進めるのかな。
少しだけ痛む胸に知らぬふりをしながら、また一口コーヒーに口をつける。
- 87 -
*前次#
ページ:
back
ALICE+