1



「十代目、ベネチアにあるホテルについての書類です」

「ん、」



売り上げは順調なようで、など書かれている内容を要約して伝える。
私の話を聞きながら一生懸命考えるツナを少しでも応援したくて、できるだけ砕いて説明する。
改装の件は承諾しようとツナは少しだけ慣れた手つきでサインした。

じゃあ次、と二枚目を取り出すと少しだけうんざりしたような表情。
その表情に苦笑しながらも今日中に終わらせないといけない書類なので容赦はしない。


――継承式は無事に終わり、私たちは十代目ファミリーとして走り始めた。

最初はイタリア語があまり得意でないツナをフォローすることの方が大変だったが、最近はツナ一人でもなんとかイタリア語での会話ができるようになった。
仕事も慣れてきて、意外とデスクワークが多いことにツナは辟易しているようだった。

マフィアのボスっていったら常に戦っているのだと思っていたらしい。



「姫、ちょっと休憩…」

「あと今日中が締め切りの書類処理が12件と12時からはアポが3件入っています。
12時まであと2時間。12件を2時間以内で終わらせる自信がおありなら休憩をとっても構いません」

「……次の書類の説明をお願いします」

「はい」



きっと変に真面目なツナのことだからそういうと思っていた。
きっと笑顔を作れる人間ならイイ笑顔を浮かべていただろう。残念ながら無表情だが。

うう、と落ち込むツナにしょうがないな、と心の中でつぶやき、できるだけ簡潔に正確に話す。

がんばって心を鬼にし、集中してさせると1時間45分で終わらせることができた。
15分を無駄にしないように、と事前に用意していたクッキーと紅茶を終わってすぐにツナに出す。



「…!これって」

「お疲れさま。次のお昼のアポまで15分あるから休憩しよう」

「やったー!!ありがとう、姫!」



すごく嬉しそうに笑うツナにほっこりしながら、私は書類の確認と次のアポの準備をする。

面会に来るのはキャバッローネファミリーのボス、ディーノさま。
ツナによるとディーノさまとは知り合いで、兄弟子に当たる人らしい。

だから気を張らなくていいから楽だと話していたことを思い出しながら、必要な書類をまとめた。
一緒にお昼の会食ということで、車の手配をして部屋に戻ると姫、とツナに呼ばれる。



「はい、どうされました?」

「姫も休憩しないの?」

「私はまだやることがありますので」

「ダメ、オレ以上に働いているのに…」

「ありがとうございます。でも、大丈夫」



こういう時に安心できるように笑えたらいいのだが、いかんせん表情筋は動かない。
時計を見上げれば出発時間まであと5分。そろそろ部屋を出なければならないだろう。

ツナの上着を準備し、バッグを持つとツナの横に立つ。
それでわかったのか、ツナは「ありがとう」と言って上着を着ると颯爽と部屋を出ていく。

私も一緒についていき、待っていた車に乗り込んだ。


- 96 -

*前次#


ページ:

back
ALICE+