足りない
京の享楽街はいつも煌びやかで美しく、楽しい。
化け猫屋が経営している飲み屋に顔を出した後、花街へと足を運ぶ。
ここはお偉い方が出入りしている場所であり、金と欲望が渦巻く街。
「あらぁ、鯉さん。今日も来てくれはったんですの?」
「あぁ。酒をくれるかい?」
「へぇ、少々お待ちを」
ゆったりとした所作で頭を下げる花魁を見送って外の風景へと目を落とす。
キラキラと輝く場所であるからこそ、闇は深い。
堅気のものが危険な目に合わないように見張っておかねぇとな。
うまい酒にうまい飯、色っぽい女たちに囲まれるのも悪くねぇけどな……
ふぅ、と煙管を吹かせると失礼しやす、と酒を持った花魁が入ってきた。
お猪口を渡され、とくとくと静かな音を立てて酒をつがれる。
そして花魁は甘えるように自分へとしだれかかってきた。
「鯉さん、今日は一緒に最後までいてくれはるんでしょ?」
「…さぁね、どうだか」
「まぁ、相変わらずつれないお人」
くすくす、と鈴の音が鳴るような声で笑い声を立てる花魁は確かに美しい。
だが、それ以上は感じないのだ。
何が足りないのかねェ、と自身に問いかけながらも酒を傾ける。
空には美しい満月がぽっかりと浮かんでいた。
「綺麗な満月…」
春に近づいてきているとはいえ、まだまだ夜は寒い。
そんな中、私は美しく光る満月を見上げていた。
冷え冷えとした美しさというものはこういう美しさのことなのだろう。
――ふと浮かんだのはリクオさんの笑顔。
あの人の笑顔はとても綺麗だけど、温かくて…この月とは正反対。
同じ美しいものなのに、こんなにも違うことが少しだけおかしくて小さく笑う。
「…会いたいな…」
自然に零れた言葉にハッとする。
私無意識に会いたいなんて思った…?
…やっぱり慣れない土地にいるから寂しいのかしら。
仲良くなった人がいることに嬉しさを感じて、無意識に心の拠り所にしていたのかもしれない。
それとも……――
「…っ、もう…私ったら一体何を考えて…っ」
恥ずかしい。どうしようもなく恥ずかしい。
こういう恥ずかしいことを考える日は何か傷心に浸ってるに違いない。
ダメダメ、と頭を振って再び満月をじっと見つめるとゆっくりと襖をしめる。
再びリクオさんに会えることを期待しながら……
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