噂の姫
「よぉ、リクオ。今帰ったのかい」
「うん。おじいちゃん、牛鬼は?」
「奥の間で待ってる」
「ありがとう」
どうやら牛鬼のお土産のようで、おじいちゃんは高そうなお菓子を食べていた。
牛鬼はいっつも持ってきてくれるよな、なんて考えながら奥の部屋まで歩いていく。
失礼します、と声をかけようとしたが、中から聞こえてくる声にぴたりと手が止まる。
…なんだ、僕じゃなくて父さんに用があったんじゃないか。
「なーに突っ立ってんだい、リクオ」
「…失礼します」
どうやら僕の気配に気づいていたらしい父さんに声を掛けられて静かに襖をあける。
中にいたのは二人で茶を飲み交わしている牛鬼と父親である奴良鯉伴。
煙管の匂いが立ち込める中に入っていくと穏やかな笑みを浮かべた父さんがぽんぽんと自分の隣をたたく。
そこに座れ、という意味のようだが、こちらもお年頃。
その合図を無視して少しだけ離れたところに座り込んだ。
「久しぶりだなぁ、リクオ」
「いつ帰ってきたの?父さん」
「んー…いつだったかねぇ。ま、細かいことは気にしちゃいけねぇよ」
「はぁ…また色町に行ってたんでしょ?」
「お、いつの間にそんな言葉覚えたんだい?」
「からかわないでよ。母さんもなんでこんな奴を…」
「そりゃあいい男だからだろ。って、会わねぇ間に小言いうようになったのかい?」
「言いたくもなるよ!」
「親子喧嘩はそこまでにしておけ、鯉伴、リクオ」
ぴしゃりと切られて、二人して言葉をつぐむ。
僕たちが生まれる前からこの奴良組にいる牛鬼は父さんも僕の小さい時から知っている。
だからおじいちゃんと同じくらい祖父という立場に近いように思える。
父さんにとってもそれは同じようで、おとなしく口をつぐんでいた。
「牛鬼、待たせてごめん。どうしたの?」
「あぁ、特に用はない。お前たちの顔を見に来ただけだ」
「え…」
「総大将も心配してたものでな」
「おじいちゃんが…?」
「そういや、この京に“先見の姫”が来たってぇのは本当かい、牛鬼?」
「耳が早いな」
「“先見の姫”?」
聞きなじみのない言葉に首を傾げるとリクオは初耳か、と牛鬼が問う。
その言葉に頷くと父さんがふぅ、と煙管を吹かせた。
「先見の姫ってぇのは簡単に言うと未来の見える姫らしい。
ある国のお姫様で、人質としてきたとか。美しい姫だと聞いたが、本当かい?」
「そこまでは知らん。だが、未来がわかるというのは本当らしい」
「へぇ、そりゃあすげぇや」
「鯉伴、まさか会いに行こうなんて考えてないな?」
「ん?さぁね」
「(絶対会いに行くつもりだ…)」
美しい姫だと聞いたらすぐに会いに行きたがるんだから……
若干の呆れ交じりに父さんを見ていると父さんは「どーこでそんな目を覚えたんだか…」となぜかため息まじりに呟いたのだった。
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