月の似合う男



御簾の中に入っていくとずらりと並ぶ美しい女御様や更衣様が待っていた。
もちろん、誰一人私に好意的な視線を送ることはない。

自分の地位を脅かすのではないかと恐れている者、嫉妬している者、嫌悪している者…様々だった。

だけど、それを表面上に出すことはない。
その辺りはさすが政治に関わっている女たちだと言える。

表面上はにっこり美しい笑みを浮かべて私の手を引いて傍に座らせた。



「まぁ、可愛らしいお姫様だこと。そうは思いませんか?松の更衣」

「えぇ、本当に。梅の女御様」

「桜姫様とおっしゃいましたね。人質として参られたとか」

「まぁお可哀想に…」

「落ち込んではなりませんよ。わたくしたちを友とお思いになってくださいませ」



ねぇ、とぎゅっと手を強めに握られて、痛みに少しだけ顔をゆがませる。
そんな私の反応が嬉しかったのか、嫌な笑みを浮かべる女御様。

…あぁもうこれだから女社会は……醜くて嫌になる。



「そうだ、見てくださいませ桜姫様。女御様のお召し物を。
こちらは今流行りの染め物だとか。美しいとは思いませんか?」

「…えぇ、とても美しいですわね…見たことのない色です」

「そうでしょう。京でしか染められないとか。田舎ではめったに見られないでしょう?」

「これ、松の更衣。田舎など…失礼でしょう」

「あぁ、これは失礼しました。桜姫様、悪気はないのですよ」



くすくす、と笑い声がどこからともなく聞こえてくる。

…あぁもう気分が悪い。こんなところに我慢しているなんてばかばかしすぎる。



「そうですわね、田舎ではめったに見れないでしょう。
しかし、その染め物の原料である木の実が近江でしか取れないことはご存知ですか?
近江からわざわざ京にもってきているそうですよ。京でしか染められぬとは言えないのではないでしょうか」

「なっ…何をっ…!!」

「あぁ、失礼。このような田舎者が知っているならもちろん更衣様も女御様もご存じだったでしょう。
浅はかな知識を披露してしまい、大変恥ずかしく思っております。
恥ずかしさゆえ、女御様方の前にいるのも心苦しいのでこれにて失礼いたします」



では、と頭を下げてさっさと御簾の外へ出る。

後ろからバシンッ!と扇子が荒々しくなる音を聞いて「怖い怖い」と肩をすくめる。
これでは喧嘩を売ってしまったも同然。
今度参内するときは心してかからなければいけないな、なんて思う。

しかし高飛車なあの女御たちの鼻を明かせてちょっとすっきりしたのは言うまでもない。

さてと、帰ろうか、と歩を進めていると宴の席から離れた場所に美しい桜が見える。



「…綺麗…」



その美しさゆえに引き込まれるようにして桜へと向かって足を進める。
どうやら宴の席から離れているからか、誰一人その桜には目を向けていないようだった。

こんなにも立派な木なのに…誰にも愛でられないなんてもったいない。

周りに誰もいないことを確認して、廊下から庭へ降りるとそっとその桜へと触れる。
ひらひらと舞い落ちる桜の花びらが儚げで美しく……満月がとても似合っていた。



「…綺麗だ」

「え…」



突然かけられた言葉に思わずそちらへと目を向ける。
そこには、この宮中には似つかわしくない縦縞の着流しを優雅に着こなす長髪の男性がいた。


――なんて月が似合う男性なんだろう……


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