綺麗



―――数日前



「よぉ、お上」

「なんだ、鯉伴か。全く…いつの前に入ってきたんだ」



だらりと寝転がっているお上がやれやれとばかりに気怠そうに体を起こす。
お上とはあることをきっかけに顔見知りになったのだが、まぁそれは置いておく。
いつものように表から入ってきて、お上の部屋に入り、煙管を吹かした。

お上は脇息にもたれかかると「…で?」と話をオレに促す。
ふぅ、と煙管を吹かすと再びお上へと視線を向けた。



「“先見の姫”、お前が呼んだんだろ?」

「あぁ。面白そうだからな。…会ったのか?」

「いや。会いたいと思ってんだ」

「あぁ、なるほどな」



にやり、とお上が嫌な笑みを浮かべる。
脇息に顎を乗せて、面白そうにオレを見つめていた。



「興味があるのか、姫に」

「美人、と聞いて興味もたない男がいるのかい?」

「ははっ、違いない」



お上はぱらりと扇子を広げると、男にしておくにはもったいないくらいの色気を含んだ目でオレを見つめる。

…って、オレに色気を見せても何にも感じねぇんだがな。



「数日後に花見の宴が催される。そこに姫を呼んでる」

「…へぇ。オレに教えてもいいのかい?」

「どうせ呼ばなくても勝手に来るだろ?」

「ふっ…そうだな。じゃあな、お上」



ふぅ、と煙管を吹かせたと同時にオレの姿はゆらりと消える。





――そして、今。

最初は見つけることができなかった。つまらねェ見栄の張り合いを遠くで聞きながらまだか、と見回す。

そして見つけた。
彼女はお上に挨拶した後、お上に気に入られていることが気に入らない女御たちに囲まれていた。
しかし彼女はあっさりと彼女たちの嫌味をかわして、さっさと帰ろうとしていた。

…オレはまだ彼女と何も話していない。
そのまま帰したくねぇな。
だが、どうやって彼女を引き留めるか、

そう迷っていたときに彼女は奥にある桜に気付いて、その桜をじっと見つめていた。
姫にしては珍しく、庭に裸足で降りると桜の幹に優しく触れていた。
その瞳はどこまでも澄んでいて、…愛しげに見つめるその視線が羨ましいほどに思えて。

純粋に、



「…綺麗だ」

「え…」



そう、思えたんだ。


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