重なる面影
「誰、ですか…?」
キョトリとした目で彼を見つめると彼は柔らかい笑みを浮かべて私に近づいてくる。
大臣とか偉い地位にいる人ではないことはわかる。その服装や雰囲気で。
でも、どこか人ならざる者の雰囲気も感じた瞬間、ふわりと頭に浮かんだイメージ。
――これは、妖怪?…この人は、妖怪の、主…?
ということは、この人は、妖怪、なの…?
「オレは、鯉伴。鯉さんって呼んでくれ」
「鯉さん…?」
「あんたが、先見の姫かい?」
「…!」
ハッとして思わず彼から少しだけ距離をとる。
妖怪は私の生き胆を狙うことが多い。地元でも何度も襲われてきた。
この人が私の生き胆を狙っているとしたら…危険極まりない。
そんな私の警戒心が伝わったのか、彼は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべる。
「オレは、おめぇに危害を加えたりしねぇよ」
「…信じられると?」
「ったく…しょうがねぇな」
鯉さんは一つため息をつくと私から少しだけ離れて、廊下の端に座り込んだ。
もちろん、私に襲い掛かれない距離。それに襲い掛かる意志も感じられない。
…もしかしたら、妖怪でも悪い妖怪ではないのかもしれない。
そう思うと邪険にするのは申し訳なくなってきて、彼に向ける視線をやわらげた。
「鯉さんはどうしてここに?」
「オレはあんたに会いに来た」
「それは、先見の姫だから?あなたも未来を知りたいの?」
「いんや。そんなつまんねぇことはしたくねぇな。…ただ、どんな女なのか知りたくてね」
期待通りの女だったんだけどな、と笑う鯉さん。
…一体どんな期待をもってきたのだと疑問に思ったが、それ以上突っ込むことはなかった。
「なぁ、姫、本当の名前はなんていうんだい?」
「…桜、と申します」
「桜……綺麗な名前だ」
「桜…綺麗な名前だね」
自分の中に響いたのはリクオさんの声。どうしてだろう、この人と重なるなんて……
全く違う声音なのに……
しかし、それでドキリとしたのは事実で息を無意識に飲んでいた。
ふわり、と鯉さんは再び綺麗な笑みを浮かべていつの間にか私の目の前に立っていた。
そして、優しい瞳で私の頬をするり、と撫でて微かな熱だけ残して消えていく。
優しく撫でられた頬にそっと手を当てて、鯉さんのことを考える。
彼は一体何者だったのだろう……
ドキリと高鳴った胸は中々収まってくれなくて、もう一度そっと桜を見上げたのだった。
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