19 見間違える



くしゅん、と一つくしゃみが出て、侍女さんが少しだけ心配そうな顔をして振り向く。
お風邪ですか、と問われて少しだけ考え込む。

…そういえば少しだけ熱っぽい。しかも喉も痛い。この怠さから風邪だと言ってもいいだろう。

そうみたい、と返すと「お薬をお持ちいたします。姫様は横におなりください」と布団をひいて、薬を取りに行ってくれた。



「…あ、そういえば今日リクオさんとお茶の日だったのに…」



この体調じゃ行くこともできないし、すっぽかすことになってしまう。
ちゃんとリクオさんに行けないことを伝えたいのに、伝える手段もない。

こういう時、誰かがリクオさんのことを知っていてくれたらいけないことを伝えてもらえるのに……

姫だということを言っておけばよかった。そうすれば遣いを出しても変に思われないのに。


…もし私の家を知っていたら心配して会いに来てくれたかな……

熱のせいなのかそんなことまで考えてしまっていた。



「姫様、こちらをお飲みください」

「…ありがとう」



侍女さんにもらった薬を飲みほし、ふぅと小さく息をつく。
何だか熱が出たと自覚した瞬間にきつくなってきた。

ぐるぐると回る感覚にあぁ久しぶりだな、なんて考えながら私の意識は深く沈んでいった。





――……


どれだけ寝ていたのだろうか。
少しだけ意識が上がってくると同時に誰かが私の額に手を置いたのがわかった。

…つめたい。きもちいい……

気持ちよさにほぅ、と息をつくと、その人はよしよしと私の頭を撫でてくれた。

あぁ、そういえば昔お父様とお母さまが私をこうやって撫でてくれたっけ……
あの時は純粋に嬉しかった。…誰なんだろう…この優しい手は。

ゆっくりと目を開けるとぼんやりと見えてくる着物。



「(…リクオ、さん…?)」

「…目ぇ覚めたかい?」

「あ…」



鯉さん。


そう呼びたかったけど、熱のせいか声がうまく出なかった。

それに、どうしてリクオさんと見間違えてしまったのか……全然別人なのに。

鯉さんはとても優しい笑みを浮かべて「飲めるかい?」とお水を差しだしてくれた。
ちょうどほしくて、体を起こそうとすると鯉さんはやっぱり優しくて逞しい手で私の背を支えてくれる。
きつくて鯉さんの胸に寄りかかりながらお水を飲めば、少しだけ体が軽くなったような気がした。
とくり、とくりと鯉さんの心臓の音を聞いていると自然と落ち着く。

…何だか、お父様みたい、なんて思うのは失礼なのかな。

鯉さんはよしよしと再び私の頭を撫でて、私を包み込んでくれた。



「おちつく…」

「…一緒に寝てやろうか?」

「それは遠慮します」

「つれねぇな」



くつくつと喉の奥で笑っているが、鯉さんがぽんぽんと私の頭を撫でる優しさは変わらない。
ありがとうございます、と小さく呟くと鯉さんが「早くよくなれよ」と優しい声が降ってきたのだった。


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