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「リクオ様、鴆様がいらっしゃってます」
「え?鴆くんが?参ったなぁ…」
リクオ様があの娘と会っていることを知ってから数日たった。
リクオ様を見るたびにあの娘に会っているのだろうか、自分の知らない顔を見せているのだろうか、と嫌な考えがはびこっていく。
そんなことを考える自分も嫌で、悶々としているとき、鴆様がいらっしゃるという連絡が入る。
リクオ様の部屋に行くとどこかへ出かける準備をしていて、少しだけ胸が痛んだ。
…もしかして今日もあの娘に会いに行く予定だったのですか。
参った、と困ったように頭をかくリクオ様にぎゅっと手を握った。
「…何か、御用事が?」
「うん、ある人に会いに行く予定だったんだけど……鴆くんを待たせるわけにはいかないね」
「リクオ様、もしよろしければ氷麗がリクオ様が行けないことをお伝えに行きましょうか?」
「えっ、いいの?」
助かる、と笑うリクオ様に少しだけ気が抜ける。
…もしやましい気持ちがあるのなら、少しは許嫁である私を行かせることに抵抗があるはず。
でも今のリクオ様は何でもないように笑うから、もしかしたら愛人ではないのかもしれない、なんて楽観的な考えが浮かんだ。
「どこに行けばよろしいですか?」
「近くの橋で待ち合わせてるんだ。髪の長い…綺麗な女性」
「…、わ、かりました。行ってまいります」
綺麗、と言うリクオ様の顔はやっぱりどこか優しくて、見たことのない表情だった。
その表情を見ていられなくてすぐに視線を逸らすと足早に部屋を出て、待ち合わせ場所である橋へと向かう。
しばらく待っていると遠くから綺麗な黒髪を揺らして歩いてくる女性が現れる。
遠くからでもわかった。…あの女だと。
近づいてくれば前に見た時よりも近くで彼女の顔を見ることができる。
透き通るような肌に綺麗な黒髪、大きな瞳はどこか強い意志が秘められていて引き込まれるようだった。
「えっと…?」
「…リクオ様をお待ちですか?」
どちら様でしょうか、とばかりに向けられた不思議そうな表情に短く問いかける。
リクオ、という名前に彼女は顔色を明るくしたが、待ち人がいないことに少しだけ顔色が曇った。
「えぇ。あなたは…?」
「私はリクオ様の許嫁で、氷麗と申します」
「…っ、許、嫁…?」
「あら、御存じありませんでしたか?」
許嫁、という言葉に目の前の彼女は大きく目を見開いて息を飲んでいた。
その戸惑った表情に意地悪くも知らなかったのか、と問いかけた。
彼女は悲しげな表情を隠すこともなく目を伏せて「はい…」と頷いた。
そんな素直な反応が面白くなくて、何故かさらにイラつき、つんっと顎をあげた。
「リクオ様はご友人が来られたのでこちらには来られません」
「…そう、ですか…」
「…っ、あなたは!リ、リクオ様の…何なのです!」
「え…」
「ご友人なのですか!それとも…っし、慕っているのですか…!!」
恥ずかしくて、でも、知りたくて必死で言葉を紡ぐ。
顔が熱くなったのがわかったが、引き下がることはできなかった。
自分はリクオ様の許嫁。堂々としていていいはずだ。
彼女は自分の問いかけに対して大きな目をさらに見開いて自分を見つめる。
しかし、しばらくするとふいっと視線を逸らして俯いた。
「…友人です。許嫁様がご心配なさるようなことは…何もありません」
「…そ、う……そうなら、いいの…」
嘘だ、とも思ったし、そうかもしれない、とも思った。
少しだけしか交わさなかった言葉だが、彼女がとてもまっすぐで…思慮深いことはすぐにわかった。
目の前にいる私が許嫁だとわかった途端、一歩下がったような言葉。
許嫁である私に気を遣わせないように「何もない」と言い切り、友人だと言う。
きっと、友人として出会えばこの人のことを好きになると思った。…でも。
残念ながら友人になることはないのだろう。
自分がリクオ様の許嫁で、心から慕う限り……彼女とは平行線なのだろう、と。
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