自己紹介



お茶でもしませんか、なんて、まるで誘っているようなセリフだと少しだけ恥ずかしくなる。

それでも彼のことを知りたいという気持ちの方が大きくて結局二人でお茶をすることに。
お茶を啜る彼はどこか品があって、もしかしたら彼も武士なのかとまで考える。

…いや、考える必要はない。彼に直接聞けばいいのだから。



「あの…改めまして、ありがとうございます」

「気にしないで。困っている人を助けるのは当たり前だよ」

「…でも、彼らは武士でした。逆らえば何をされるかわかりません。あなたも武士なのですか?」

「いや…違うけど…、…まぁ、似たようなものかな」

「似たようなもの…?」

「はは…僕のことはいいんだ。君は?」



あぁまさか自分のことを聞かれるとは。
彼も訳ありのようだが、私も同じようなものだ。

まさかある国の姫で、お上の命で人質として京に来たとは言えない。

今は町娘と同じ格好なのだから、町娘だと言ってもごまかしはきくだろう。
たどたどしくだが、商人の娘だと辛うじて返すことができた。



「へぇ、何を売ってるの?」

「えっと…お、お茶やお塩などいろいろです」

「いいね。…あぁそうだ、君の名前は?」

「桜と申します」

「桜…綺麗な名前だね」

「…っ…」



ふわりと笑ってさらりと褒めるから、思わず顔が赤くなっていくのがわかった。

この人は恥ずかしげもなく…しかもさらりと。京の人はみんなそうなのかしら……
目の前の彼は狙っているようには見えないから、どうやら天然らしい。

恥ずかしさは消えないから、彼から目をそらしながらも何とか「あなたは?」と返すことができた。



「僕は奴良リクオ。よろしくね」

「奴良…リクオ、さん…」

「そういえば桜さんはどこかに行く途中だったの?」

「あ…」



リクオさんの言葉に急激に思い出す本来の目的。
本当はただのお散歩のつもりだった。一刻ほどで戻ろうと。

でも、おそらくもうすぐ一刻ほどたつ頃だろう。もし、外に出たとわかりでもしたら……

まずい、と顔を青くさせて勢いよく立ち上がった。



「リクオさん、今日は本当にありがとうございました!申し訳ありません、急ぎますのでここで!」

「え?あ、送ろうか?」

「いえ!!急ぎますので!では!」

「あ、桜さん!」



後ろから呼び止められる声が聞こえたけど、心の中でごめんなさい!と謝りながら走って屋敷まで戻っていく。

どうか侍女さん、まだ部屋には来ていませんように…!

出てきた穴に入る前に周りを確認して、中に入っていく。
屋敷の中の気配を確認したが、どうやら私がいなくなったことに気付いていないようで静かそのもの。
もし私がいないとわかっていたら屋敷の中は慌てていたに違いない。

それでも安心することはできない。今の格好を見られたらあの冷たい侍女に一体どんな小言と冷たい視線をもらうかわからない。

早く着替えないと、と部屋に戻り、先ほどと同じ格好に戻り、何もなかったように部屋の上座に座り込む。

静かすぎる部屋。広くて…まだ生活感のない部屋……それが一気に現実味を帯びてきた。


…あぁ、先ほどの出来事は夢だったのだろうか。

活気のある街、おいしそうな匂い、目新しい物、…そして、凛々しくも優しい奴良リクオさん……
一刻ほどの短い時間だったけど、とても色鮮やかな思い出で、私の心から離れない。



――また、会いたいな……


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