「あ、あのっ!どうして、こんなとこからっ!」

「無駄口叩いてるひまがあったら速く走れ。来たぞ」

「は、いっ…!」



私が今、何をしているのかもうおわかりですよね?
―――ただいま人生初の飛び降り乗車中。

ぎりぎりでの飛び乗り乗車なのだから、着地するので精一杯。
肩で息をしつつ、その場に座り込んでいた。



「…普通に乗ることは不可能なのでしょうか…」

「この仕事を続けるなら不可能だな」

「そうですね…」



行くぞ、と声をかけられて、屋根から一等室の廊下に入ると慌ててボーイがとめに入る。

当たり前の反応ですよね、と苦笑するのだが、神田は慣れているようで何ともない顔をしていた。



「お、お客様!?こちらは一等室でございまして一般のお客様は…」

「黒の教団だ。一室用意してほしい」

「く、黒の…!?少々お待ちください」



さすが黒の教団。名は通っている。
ボーイはその名を聞いた途端、すぐに対応をかえ、一室用意していた。

その迅速な対応に聖は「相変わらずすごい…」と呟いた。
どうやらクラウド元帥もこの特権をフル活用していたらしい。
しれっとした顔で高級料理店にも入るのだから恐ろしいものだ。

元帥曰く「当然の権利だ」らしいが。



「…入るぞ」



どうやら神田も元帥の言いぐさを想像できたらしく、一瞬気まずそうに黙り込んだが、部屋に入った。

個室なので何を話しても誰にも聞こえないので会話してもいいのだが、神田に会話の種などあるはずなく自然と黙って資料を読み始めていた。
そんな神田に嫌な顔一つせず、聖も同じように資料を読み始める。
無言の部屋には紙をめくる音のみが響いていた。



「(アクマの大量発生…イノセンスのある可能性が高い……
簡単そうな任務だけどイノセンスの確認はまだ…予想以上に難しいものになるかも、ですね)」



イノセンスはある“可能性が高い”が、まだ目視はされていない。つまり確実にあるとは言えない。
それなのにアクマは大量に発生していて、アクマの破壊をしながらイノセンスを探さないといけない。
達成されるべき目的を二つ同時に行わなければならないことから難易度が高いことは明らかだった。

しかし、今の聖には他にも懸念材料がある。

ふぅっと小さく…しかし神田に聞こえないようにため息をつき、資料を閉じた。



「神田さん、少し席を外してもよろしいでしょうか?」



特に断る理由のなかった神田は資料から目を離さずに「あぁ」と短く許可する。
その返事を聞き、聖は音もなく出て行った。



「―――やっぱりもうバレちゃうのかな…」



汽車の最後尾に行くと外に出て風で金色の髪をなびかせた。

別に気分が悪くなったわけじゃない。
ただ…覚悟が決まらなかっただけだ。

しかしその金髪が黒に染まる。



「風」

“ここに…。聖様は…どうされるおつもりなのですか?”

「わからないです。…ユウに私の正体を知られてもいいと思っているのか…」

“ですがどう説明されるおつもりですか?あの頃の事情を話しては鍵のことが…”

「そうですね…それは充分わかってます。
でも、本当は気づいてほしいのかもしれない…それとは逆に怖くもあるんです。
ユウが私のことを覚えていなかったらと…」

“聖様…”


聖の表情は憂いを帯び、何かを思い出すように遠くを見つめる。
その目には悲しみと…微かな切望が混ざっていた。

主である聖の微かな望みに気付いているからこそ、風は何も言えず悲しげに目を伏せた。



「幼い頃とはいえ私はユウが…好きだった。
いいえ…今でも…好きです。
だからこそ気づいてほしいのかもしれませんね…」

“…、…聖様、ユウ様がこられます”

「そう。またね、風。ありがとう、心配してくれて」

“私は聖様のことが大好きです。
元気をお出しください。聖様の笑顔が大好きなのですから”

「はい。私も風が大好きです…」



黒髪だった聖の髪がまた金髪に戻る。
それと同時にドアが開き、ドアを開けた神田は聖に声をかけた。



「おい」


一声で呼んだ神田に嬉しそうに目を細めた聖が振りむく。

神田は先ほどよりもすっきりとした表情をしている聖に「なんの心情の変化だ」と不思議に思ったが何も聞くことはできなかった。
…自分が思っている以上に聖のことを気にしていることに気付かずに。



「次で降りる。準備しろ」

「はい」



用件だけ伝えると神田はさっさと汽車の中へ入っていった。
ドアを閉め、神田はさっきの光景を思い出す。

一瞬髪が黒かった気がする……
それに…振り返ったときのあの雰囲気……

似てる……



「まさか、な」


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