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ガタン ゴトン

汽車がゆれる音だけが室内を支配する。
神田の怒りは相当なもののようで、先ほどから一言も発していない。

痛い沈黙はよけいに聖をうつむかせ…もう聖は泣く寸前になっていた。



「(怒ってる…すごく怒ってる…)」


どうしよう?
でもここで謝ったら絶対神田は怒るだろう。…謝るくらいならするなと。
自分の行動に後悔はない。だが、結果的に神田を心配させてしまったことは…後悔している。

どうすればいいのでしょう…と途方に暮れていると、



「…おい」

「…、……はい」

「ちっ…泣くな」

「え…?」



思いもよらぬ言葉にばっと顔を上げると頬を伝う一筋の涙。
はっとしてすぐに拭くがそれが合図のように涙は止まることをしらない。

止めよう、止めようとすればするほど涙があふれてくるから困ったものだ。



「あ…えっと…、これは…」

「…泣くなっつってんだろ」

「そうなんですけど…止めようとしても止まらなくて…、ふふっ…どうしてでしょう…?」


理由はわかっている。
神田が怒ったのは自分のことを心配してくれているからだ。

…そしてそれが“鈴”ではない“聖”に言ってくれたのが嬉しかった。

ぎゅっと目をつぶる聖を神田は静かに見つめる。



「…やっぱ似てる」



ぽつりともらした神田の呟きが聖の目を開かせる。
あまりにも唐突で…小さな期待をもたせるような、呟きだったから。

思わず「似てるって…?」と聞き返していたが、胸の鼓動は期待するように高鳴っていた。



「オレの知ってる奴とお前、仕草とかがそっくりなんだよ。
いや……むしろ、似すぎている。…お前は本当に……聖って名前なのか…?」

「…っ!!」



神田の言葉に、聖は驚きで目を見開いた。
まっすぐ見つめてくる神田に鼓動が聞こえるかと思うほどドキドキしている。

神田が、気付いてくれた。

その事実が、嬉しかった。
一生気づくことはないと思っていたのに……いや、隠し通そうと思っていたのに。

こんな風に言われてしまったら…そんな気持ち、…なくなってしまう……



「私は…聖です。正真正銘の、というわけではないのですが。
でも偽名を使ったことが…あります」

「偽名…?」

「はい。いくつもの偽名があります。…その一つが……



『鈴』」

「…っ!?」

「ユウ…気づいてくれて、ありがとう…」


すごく…すごく嬉しそうに微笑む聖に神田は驚きを隠せなかった。

さっきの声と…同じ、鈴の声だったから。
神々しいとも思える…少し高いソプラノの声。



「イノセンス…発動」



聖の静かな声と共に染まっていく髪と目。黒の…日本人である証拠の黒に。

そして…鈴という女の子だとちゃんとわかるように……


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