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「おはようございます」
「おはよ、聖。大丈夫か?」
「はい、平気です。ありがとうございます、ユウ」
「ユウ!!??」
まだ少し顔を赤くさせている聖から出てきた信じられない言葉にラビは大げさに驚く。
それはそうだ。普段自分が「ユウ」と呼んだだけで殺気交じりに睨みながら「俺のファーストネームを口にするんじゃねぇ」とどす黒い声で凄むのだ。
神田は舌打ちしつつ「うるせぇよ、兎」と不機嫌そうに眉を顰める。
そんな神田に聖は穏やかな笑みを浮かべてラビに「幼馴染なんです」と事情を説明した。
へぇ、と意外そうな顔をするラビに再び神田は顔をそむけたが、聖は「ラビさん、ユウと呼んでもいいのは慣れてるから許しているだけなんですよ」と特別じゃないといった。
聖の言葉にラビは「特別じゃないわけがないだろうな」と思いつつも、「さん付けじゃなくていいさ」と笑った。
…にこりと笑う聖に抱きつきたい衝動を必死で押さえて。
「もういいだろ。聖、あっちで一緒に食べようぜ」
「待ちなさい。聖は私と食べてたのよ」
聖を連れていこうとする神田に対して即座に引き留めるリナリー。
そしてリナリーには逆らえない神田。…これがラビだったら無視していただろうが。
幼いころからの癖なのか神田は小さく舌打ちすると「仕方ねぇな」と苦々しく呟くと乱暴にリナリーと反対側の聖の隣に座る。
そんな神田に驚いたのは周りの人達。
あの神田が人と一緒に食べるなんて!!と。
聖は照れてるんですねと解釈し、くすっと笑いを漏らした。
「さ、リナリーもラビも食べましょう?」
「えぇ!」
こうして一緒に食べることになった四人だが、黙ってもくもく食べる神田、楽しそうにしゃべりながら食べるリナリーとラビ、にこにこと聞きながら食べる聖と人それぞれだ。
時々一口頂戴、なんてリナリーと聖の間であったり、それに乗じてラビも「俺も!」「「ダメ」」「酷い…」なんて会話をしつつ。
比較的穏やかに楽しく食事をしているとき、ラビは目をキラキラと輝かせて身を乗り出した。
もちろん、こういった時のラビはろくなことがないのだが。
「なぁなぁ聖、聖はユウのこと好きなんか?」
「ぶっ!!」
ラビの問いに思わず神田は蕎麦を吹き出す。
それに対して「汚いさ〜」とラビは暢気に言ったが、神田のギラリとした睨みにすぐさま口を閉じた。
「てめ…っゴホッ…!何聞いて…っ」
「大丈夫?ユウ」
聞かれた本人はというとこれまた暢気に神田の心配をし、神田の背をさすっていた。
動揺してるさ〜と口には出せないことを心の中で呟くと、リナリーも目を輝かせて「私も気になるわ!」と身を乗り出した。
「神田のこと好きなの?」
「はい。好きですよ」
「ぶ…っ!!」
今度は聖からもらったお茶を吹き出す神田。
そっちにつっこみたかったが今はそれどころじゃない。
ラビは「付き合ってるのか!?」とさらに身を乗り出したが、聖はあっさりと首を横に振った。
そんなあっさりとした反応に二人は同時に悟った。
…あぁ、恋愛対象にされてないのね、と。
神田の態度はあからさまだ。どっからどう見ても聖を大切に思い、…好いている。
しかし、当の本人である聖がそれをただの「友人」としての好きにしかとらえていない。いや、下手をすれば家族としての好きとしてとらえているかもしれない。
俺も好きだぜ、と神田は少し顔を赤くしながら伝えたが、聖はにっこり笑って「嬉しいです」としか答えなかった。
「「「(あぁ…伝わってない…)」」」
がっくりと肩を落とす神田。
それに対して苦笑するリナリーとラビ。
どうやら神田の受難は続きそうである。
あからさまに落ち込んでいる神田にチャンス!とばかりにラビは聖に接近した。
「なぁ、聖。聖って何人?名前は日本名みたいだけど髪とか…」
「あ、えっと…遺伝で…」
ちょっと困ったように言うとラビは聞いてはいけなかったことか、と少しだけ気まずそうにする。
…本当は聖は嘘をついている罪悪感から困ったのだが。
ごめん、と謝るラビに「気にしてませんから」と笑ってラビの目を見つめる。
しかし、何かに気づくとさっと聖は目をそらしてしまった。
不自然な聖の行動に三人は首をかしげた。今までにそんなことはなかったというのに……
聖も今の行動が不自然だと思ったのか苦し紛れに言い訳する。
「あ…私、コムイさんから呼ばれていたんでした。ごめんなさい。お先に失礼します…」
食べ終わっていた蕎麦を持ち、逃げるように聖は食堂を出て行った。
あっという間に出て行ったその背を三人はぽかんと見送る。
どうしたのだろう?と小さな違和感だけを残して。
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