「調べても何もわからない?」


司令室に低くもどこか響くような独特な声が響く。
コムイはその声に小さくうなずいた。


「はい、ブックマンは何かしりませんか?…彼女について」


ブックマンが持っている資料にはさまれている、一枚の写真。
そこには金髪の女性―――海神聖が写っていた。

ブックマンは再びその写真に目を落としたが、格別思い出すことは何もない。
確かに目を引く容姿ではあるが、会ったことも…歴史の中に名を連ねる人物たちとも違う。

再び小さく息をつきながら「知らぬ」というとコムイは困ったように「そうですか…」と肩を落とした。

世界一の情報網を誇る教団をもってもなんの情報もつかめない少女。
本人の言っていた『日本人』と言うことを元に日本中を調べたが、


『海神聖』という少女はいなかった。


容姿が日本人に見えないことを考慮にいれて世界中を調べたが、どこにも『海神聖』という人物が生きている証拠はない。


「君は一体…何者なんだ?聖ちゃん…」

「だがクラウド元帥の紹介なら身元は怪しい者ではないだろう。そんなに心配することではないと思うが。…この時世、身元が分からぬ者など珍しくない」

「えぇ。ボクもそう思うのですが…」


一緒にいてわかる。…聖は悪い子ではない。

むしろ、いい子だと思う。
仲間思いで、誰よりも強くて優しい…頼もしさすら感じる。

しかし、何も掴めないことが、やはり気にかかる。
そして室長として疑わしい人物がいるのは……

信じたくとも信じられない自分の立場と疑心に小さく自嘲を漏らした。


「心中察する、室長殿。わしも調べてみよう」

「お願いします、ブックマン…」

「聖は普通の人間だと思うさ〜」

「…っ!?」


びっくりしているコムイとは反対にブックマンは冷静にラビの方を向く。

ラビはいつの間にか積まれてあった本に頬杖をついてにっこり笑っていた。


「馬鹿弟子め。いつからおった」

「最初からさぁ☆」

「…まぁよい。では室長殿、海神聖と一緒の任務にしてはくださらぬか」

「…ブックマンには別任務を頼みたかったのですが…」

「なら弟子一人でもよい」

「聖と一緒の任務!?よっしゃー!!」


聖と二人っきりさ!!とはしゃぐラビにブックマンは一発殴りつける。
「遊びではないわ、馬鹿弟子!」と怒鳴るとラビは恨みを込めて「いってーさ、パンダ」とブックマンをにらみつけた。

そんな二人のいつものやり取りを聞いてコムイは笑ってパンっと手をたたいた。


「じゃあ、決まりだね。ラビと聖ちゃん、神田くん三人で行ってもらうよ」

「は!?ユウも!?」


聖と二人っきりじゃないんさぁ!!??と思いっきり悔しがるラビに対して少しだけ引くコムイ。
そんなに二人っきりがよかったのかなぁ、と苦笑しつつも元々神田と聖に任せるつもりだった任務であること、不確かな情報が多い危険な任務であることを伝えるとラビはあからさまに残念そうにうなだれる。


「2人っきりだと思ったのにさぁ…」

「ごめんね。じゃ、神田くんと聖ちゃん、呼んできてくれないかな?」

「おー…呼んで来るさぁ…」


とぼとぼ歩いていくラビになんだかしおれた兎の耳が見えた気がして、コムイは小さく苦笑を漏らしたのだった。


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