「そこまで喧嘩がしたいならお相手して差し上げますよ?」

「ハッ!上等だ」



そう言った刹那、神田の視界から聖が忽然と消える。
否…聖は消えたわけじゃない。

次の瞬間には頭に冷たい感触と微量の殺気を神田は自分の背中に感じた。
…聖は、ただ、“神田が可視できない速さで移動した”だけだった。



「(……っいつの間に!?)」


全く見えなかった、という事実に神田は舌打ちしたい衝動に駆られた。
いくら少し気を抜いていたからと言って後ろを取られることなんてない。…いや、あってはならないことだ。

何者だ、と聖にはわからないように神田は眉を眉間に寄せた。



「わかりますか?いきなり銃を突き付けられると怒りたくなりますよね?」

「…………」



何も言わない神田に、聖ははぁ…と、荒れる感情を仕舞うように息をつくと銃をしまう。
同時に殺気をしまえば、神田は自分から力が少し抜けたことがわかった。



「…感情に流されました。新人が生意気言って申し訳ありません」


いきなり下手に出て深々と頭を下げる聖に神田は目を見開いた。
…先程まで優位にいたにも拘らず、身を引いた聖に怪訝に思ったが、「新人だから」という理由で引き下がったこの潔さは神田にとって好感を得られるものだった。

強者は弱者を侮り、時には年上に対する尊敬を失わせる。

この世は所詮弱肉強食。年など関係ない、と思ってはいるが年上をたてる、という日本人の性質を垣間見たようで、何故か闘争心がなくなった。



「チッ」

「(怒ってますね…)」

「…行くぞ」

「え?」


しかし、そこはやはり天邪鬼。

わざと不機嫌そうに舌打ちして聖に背を向けた。
そして、聖はいきなりの言葉に今度は自分が驚く番だった。何しろ怒らせた、と思っていたのだから。

思わず神田をじっと真意を考えるために見つめてしまう。


「ちっ、コムイんとこ行くんだろ?」


つまり案内してくれるということ。
そんなぶっきらぼうだがわかりにくい神田の言葉に、優しいとこは変わってない、と聖はフードの下でこっそり顔を綻ばせた。


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