好きなのに、好きだけど、好きなんだ。



好きだよ。…そう簡単に言えたらどんなに楽なんだろう。





「ツナ!」



久しぶりね、と笑う彼女、姫は社会人2年目で、大学4年の俺にとって二つ年上の彼女だ。
ふわり、と笑うその笑顔は次第に大人びていて少しだけ気持ちが焦るがそれを表に出すことなく、久しぶり、と笑う。

自然と手を繋ぐ仕草にやっぱり変わらない、と思いながらも「どこ行く?」とやっぱりノープランな彼女に仕方ないと笑った。



「ご飯食べよう。この前おいしいお店見つけたからさ」

「わっ、それいい!」



手を繋いで歩き出せば話すことはつきない。
仕事でこんなことがあった、大学でこんなことがあった、そういえばこの前あそこのお店がオープンして…そんなたわいのない話。
笑っている姫に、俺も幸せな気持ちが広がって、やっぱり姫が好きだと実感する。

でも、それと同時に切なくもあることを、姫は知らない。

以前…姫がまだ同じ大学にいる頃は気軽に会うことができた。
付き合い出したとき、姫はまだ就活中で忙しかったけど、会おうと思えば会えたし、迎えにだって行ったりした。
−−−でも、社会人になって、それもできなくなったんだ。

何をしてるか、何を考えてるか、見えにくい。
一週間以上会わないことが普通になってしまって、…そのことに寂しさを感じないほど、俺は大人じゃなくて。

俺も同じ社会人になれば、こんな気持ちはなくなるのか?
会いたい、けど仕事中であろう姫に「会いたい」なんて言えなくて、何度も携帯を閉じたりしなくてよくなるのか?

−−−思ったときに「好き」だと言いづらくならなくて、よくなるのか?




「…ツナ?」

「……ごめん、ちょっとぼぉっとしてた」



何もしゃべらなくなった俺を心配そうに見遣る姫に何でもない、と笑ってみせる。
けど、変なところで鋭い姫がそれで納得するわけなくて「寄り道しよ」と言ってあまり人が来ない公園へと入っていった。



「…ツナ、言いたいことは言っていいんだよ」

「……俺は、何も…」


「嘘。…私と別れたくなった?」

「違う!!」

「じゃあ、何?どうしてそんな顔するの?」



私が嘘嫌いって知ってるくせに、と軽く怒った表情で俺を睨む姫に俺は眉を情けなく下げた。
知っていた。…嘘も、誤魔化しも嫌いなことも、知っていたけど…言えなかったんだ。
俺ばっかりが子どもで、大人な姫に呆れられるんじゃないかって、怖くて。



「………」

「…ごめん、久しぶりに会ったのに…。
今日は帰ろっか。ちょっと距離を置いて「これ以上置けるわけないだろ」



背を向けかけた姫の背中をぎゅっと抱きしめて顔を埋める。
姫は戸惑ったように小さく俺の名前を呼んだけど、体を離すことはなかった。

姫と会いたい、って気持ちでいっぱいなのに、俺の安っぽいプライドのせいでこんなことになるくらいなら、全部吐き出した方がましだ。
……たとえ姫に呆れられても。



「俺は、ずっと…姫に会いたかった。
毎日会っても足りないくらい」

「…ツナ……」

「仕事と俺を比べろなんて言わない。…けど、姫が好きだから…だから、もっと一緒にいたい」




きっと呆れたと思う。
姫の反応が結局怖くなって、俺は姫を抱きしめる力を強くした。
すると、ぎゅっと姫の背中に手を回す力が強くなる。



「…私だって、一緒」

「姫…?」

「私も、ずっとツナと一緒にいたい。
けど…私は、大人だから、そんなこと言ったらツナの負担になると思って…っ」



ごめんね。ツナが大好きよ。


小さく、本当に小さく呟かれた言葉に俺の心の中で今までぽっかりとあいていた隙間が一気に埋められた気がした。
単純かもしれないけど、きっと俺はこの一言を待っていたのかもしれない。




「俺も好きだよ」




そっと重なった唇に、目が合った瞬間二人して優しく笑い合う。
お腹空いたね、と笑うと今度こそ食事に。

−−−きっと俺たちはこうやって大人になっていく。



好きなのに、好きだけど、好きなんだ。


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