君しかいないの!
「獄寺くん、俺、どうしたらいいかな…」
いつも自信に満ち溢れていて、堂々とされている十代目がそうおっしゃってきたときにはかなり慌てた。
その顔には陰りがあり、いつものような光りが見当たらなかった。
な、何かあったのだろうか…最近はマフィア関係のいざこざはなかった気がするが…!
と、とりあえず状況確認が必要だよな!
「どうされたんですか!?何か仕事で不祥事でも…」
「いや、仕事で不祥事はないよ。
そうじゃなくて…」
「ではなく?」
「…………姫が嫉妬してくれない」
「…………………は?」
ぽつり、と非常に悲しげに呟いた言葉は何ともまぁ信じがたい言葉。
姫が嫉妬してくれない。どうしよう。
…………んなもん知るかっつーの!!!
普段仲が良すぎてバカップル呼ばわりされる十代目とその彼女、姫。
そんな二人の悩みなんてどうせどうしようもなくバカップルらしいものなのだ。
嫉妬してくれない?結構じゃねぇか。
そんだけ相手のことを信頼しているということだろう。
むしろ毎回嫉妬されたらうざいに決まってる。
…十代目なら毎回にやにやしながら喜びそうだけどな。
しかしそんな俺の心情も知らず十代目は嘆き続ける。
「だって俺が他の女と食事に行ったって聞いても『そうだったんだ。おいしかった?』って聞いてくるんだよ!
普通は好きな男が他の女と食事に行ったら怒るもんじゃないの!?」
「それだけ十代目のことを信頼しているということでは…」
「絶対違う。あれは本当に俺がどこに誰と行こうが関係ないって感じだった」
「…………。」
じゃあどうでもいいって思ってるんじゃないっスか。
なんて言った暁にはこの人は八つ当たりでこの屋敷を吹き飛ばしかねないので黙っておく。
「この際浮気でもして…」
がちゃり。
「「…………」」
「へぇ、ツナ…浮気、してるの?」
タイミング悪すぎるだろ!!
と言っても遅い。
十代目が浮気、と言った瞬間にドアが開き、書類を抱えた姫がそこに立っていた。
しかも、浮気という単語だけ聞こえたらしく、彼女は満面の笑みを浮かべながらその後ろに般若を従えている。
…もう十代目と俺は固まるしかない。
しかし、姫に誤解されたとショックで固まりながらもわかったのか十代目は「違う!」と否定の言葉を叫んでいた。
さすが十代目っス…!!このタイミングで言えるとは…!
…だが、姫にとってはただの悪あがきにしか聞こえなかったらしく、さらに怖い笑みが深まった。
「何が?」
「違うんだ!誤解だ、姫!」
「だから… な に が ?」
「う…あの、その、浮気とか…!本当にしてないんだ!!」
「…じゃあ、何浮気って」
「え、えっと…その……」
十代目えええ!!
そこで何で吃られたんですか!?
おさまりかけそうだった般若は再び顔を出し、姫は「しばらく、会いたくない」と冷たく言い放って部屋を出て行こうとする。
十代目は慌てて姫の腕を掴むと「ちょっと待って姫、俺…」と言いかけて少し目を大きくさせた。
−−−姫が、泣いていたから。
姫は勝ち気なところがあり、めったに涙を見せない。
むしろ見せたがらないのだ。
そんな姫が泣いているのを見るのは初めてで俺も思わず驚いてしまった。
(息すら、することを忘れるくらい)
「…わかってる。ツナが浮気したくなるくらい、私が可愛くない性格だってことくらい。
だから……悔しくて、自分が嫌なの。
私が…もっと可愛かったら、…っ!?」
言葉を続ける姫の腕を引っ張り、十代目はぎゅうと力強く姫の体を抱きしめた。
見てはいけないとわかりつつも体が簡単に動いてくれず俺はそのまま見つめていた。
「可愛いよ。姫は十分、可愛い」
「…っ、でも、」
「浮気なんてしないよ。姫以上に愛せる人なんていないから」
「……ツナ…」
じっと見つめ合って顔を近づけ、二人の世界を作り始めた二人にやれやれ、とため息をつきたい衝動を抑えて俺は静かに部屋を退出する。
どうがんばったって、あの二人の愛は引き裂くことはできないだろう。
あの二人を見ていると「俺も彼女作った方がいいのか?」なんて思うのだが、まぁ、そんなの一時的だ。
今頃らぶらぶ(今は死語か?)しているだろう二人に俺は小さく笑ったのだった。
君しかいないの!
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