愛してるの一方通行



「ねぇねぇ恭弥、あのね!」




嬉しそうに笑いながらノックもせずに入ってくる姫。
本来ならノックくらいしなよ、と注意するところだが、姫のあまりにも嬉しそうな笑顔に毒気を抜かれて何も言えなかった。

そんな僕に気づくことなく、姫は笑ってソファーに座り込む。



「さっき綱吉さんに会ってね、少し話せたの!」



もうかっこいいー!とじたばたする姫にまたか、と胸が苦しくなる。


―――小さいときから一緒にいる、大切な幼なじみ。
それが大切な女の子になったのはいつからだろう。

僕に屈託なく笑いかける姫がどうしようもなく、いとおしかった。・・・けど。

大学生になった姫は僕じゃなくて近くにいる沢田綱吉を好きになった。

それを最初に聞かされたときはどうして、っていう気持ちが強かった。
ずっと一緒にいたのは、僕なのに。僕の一番は、姫なのに、どうして。
でも、それを伝える勇気がなくて、結局僕は居心地のいい幼なじみの立場を保っている。

…そして、ある日知ったんだ。

沢田綱吉には、大切な彼女がいることを。

僕が聞いたわけじゃない。姫が言っていたことだ。
しかもたちが悪いことに、沢田は好意をもっていることを知りながら姫に優しくしている。
ずるいよねーと痛々しく笑う姫に「そんな不毛な関係、やめたら」と言いかけそうになったが、それこそ僕にいえることだと姫にわからないように自嘲をもらしたのは記憶に新しい。



―――そんな、ある日。



「きょうやぁーただいまー!」

「…いつからここが君の家になったの。…って、姫、酔ってる?」

「ふふー酔ってないよー」

「(完全に酔ってる…)」



姫の本当の家は隣だ。けど、よく僕の家にくるのはいつものこと。
そんな中、酔っ払ってこの家に来たのは初めてだ。
今日は沢田と一緒だと確か言っていた。…のに、こんなに酔っ払って帰ってくるなんて。
何かあったのだろう、と簡単に予想がついた。

姫はいつものようにソファーに寝転ぶと悲しげな笑みを浮かべた。
その笑顔があまりにも辛すぎて、僕は姫から視線をはずす。




「綱吉さんにねー姫のことを女としてみれないって言われちゃったー」

「……そう」

「なによぉ…別に、好きになって、なんて…言ってないのにっ…」



好きになんて、なりたくなかったよ……



そう呟いて、姫から小さな寝息が聞こえてくる。

…寝た、のか。

そっと姫に視線を戻して、少しだけ後悔する。
気合を入れていったのか、姫には珍しい短いスカート。
そこからのびるすらりとした足に、姫の前ではただの男の僕は少しだけ体が熱くなる。
そんな邪な気持ちを静めるためにもう一度姫から視線をはずして、姫の身体が見えないように近くにあったブランケットをかけた。

―――嫌でも目に入る、姫の涙。

そんなに、アイツがいいの。
君の気持ちをもてあそぶ、アイツが好きなの。
バカじゃないの、絶対に振り向いてくれない相手を好きになるなんて。

……でも、




「バカなのは、僕の方…か」



そっと姫の涙をぬぐって、姫のおでこにキスを落とす。
その感触に姫の意識が浮かんだのか、姫は「きょうや…?」と小さく僕の名前を呼んだ。

…それだけなのに、もう、気持ちがとまらなくて、


―――姫の唇にキスしていた。


姫はすぐにはっとして僕の胸を押すと何も言わずに部屋を出て行った。

…まだ残る、姫の温もり。

かすかに見えた、姫の涙。


あぁ、僕は…ついに、姫を傷つけてしまった、か。




「僕を好きになりなよ…っ」




苦しげに呟かれた僕の言葉は、むなしく部屋に熔けていった。




愛してるの一方通行



お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、失恋ショコラティエをもとに作っています。
個人的にオリビエの恋愛が切なすぎて大好きです笑


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