夏に咲く花


最初は「何こいつ」と思っていた。

僕の親友である沢田綱吉の後輩で、どうやら優秀な弁護士らしいけど、綱吉のことが好きで、綱吉の傍にいたいことがまるわかりだった。
そんな浮ついた気持ちで僕たちの仕事に関わられても迷惑だ。
だから最初は冷たく当たって、やめさせようと思った。

…でも。

彼女の…姫の仕事に対する熱意は本物だった。
確かに優秀で、一度こうだと決めたことは納得いくまで筋を通していく。
その意思の強さに、見直した。

それなのにどこまでも不器用で、綱吉のこと全身で好きなオーラ出してるのにアピールできず、空回りばかり。
振り向いてほしいと一生懸命なところがかわいくて…それに気づかない綱吉はどれほど鈍感なのかと呆れもした。
…かわいい、なんて思ってない。今のは言葉のあやだ。

でも、少しだけ綱吉が羨ましく感じるのは、どうしてだろう。



「ね、恭弥。綱吉さんって花火好きかな?」

「本人に聞けば」

「聞けないから恭弥に聞いてるんじゃない!…ちなみに恭弥は好き?」

「人混みを咬み殺したくなる」

「あはは…ですよね…」



はぁ、と僕の隣で憂いたため息をつく。
そんな姫に「僕なら行ってあげてもいいけど」と言いそうになり、慌てて口をつぐむ。

ありえない。僕が群れの中に飛び込むだなんて。
だいたい何で僕が綱吉の代わりにならないといけないんだ。

僕は、




「…っ」



僕自身を見てほしい、なんて。



「恭弥!花火、誘えた!!誘えたよっ…!」

「……」

「恭弥には相談のってもらってたから、一応報告ね!…恭弥、ありがとう」



嬉しそうに、幸せそうに微笑む姫に、苛立って。
君にお礼を言われる筋合いはない、なんて冷たく言い放つ。
慣れているように「はいはい、すいませんでした」と肩をすくめる姫に違うとも言い切れず、結局黙り込む。

あぁ、綱吉ならきっとこういう時に素直に言えるんだろう。
…なんて、ないものねだりだな。

綱吉にただ「かわいい」と言われたいがために浴衣まで着て、祭りに出かけて行った。
後姿を見つめながら「あぁ、可愛いな」なんてぼんやりと考える。

綱吉は元カノのことをひきずっている。…そんなこと、姫も僕もわかっているのに。
それなのに、綱吉に振り向いてほしくて、女の子として見てほしくて、…かわいいと言われたくて、一生懸命がんばる。
慣れない浴衣も、慣れないピンクの髪飾りも、…全部、全部、綱吉のため。

本当、不器用な子。

…そんないじらしい姫を、かわいいと思う僕は、もっとばかなんだろうけど。

花火が上がり始まり、見ていられなくて、窓から視線を外す。
きっと今頃姫と綱吉はこの美しい花火を二人で見上げているのだろう。
…もしかしたらあの子は綱吉に自分の想いを告げるかもしれない。
綱吉は、そのとき…、…って、考えたって無駄か。綱吉自身が決めることだ。

やってられない、と僕はトンファーをもって風紀を乱しているであろう草食動物たちを咬み殺すために外に出かける。
どうやらみんな花火を見ているようで、風紀を乱している人間は見当たらない。
人気のない場所にでも行こう、と足を進めていると、見慣れた後姿がなぜか一人で寂しげに座り込んでいる。

まさか。あの子は綱吉と一緒のはず、



「…っぐすっ…」

「…何泣いてるの」

「…っ!きょ、恭弥…」



話しかけると慌てて目をこする姫。
どうしてここに、と小さく問いかける姫に「見回り」と一言。
ご苦労さまです、とつぶやいて、姫はじっと海を見つめたまま動くことはない。
涙は止まらないようで、静かに涙を流し続ける姫の隣に僕も黙って座り込む。




「恋は…楽しいだけじゃない。…こんなに、苦しいんだね」




小さくつぶやかれた言葉。
そっと横を見れば、姫は悲しげな眼を潤ませて、必死に泣くことをこらえようとしていた。

…ーーあぁ、もう、この気持ちを、抑えられない。
ずっと、見ないふりをしていた。気付かないふりをしていた。
でも、もう、…無理だ。

ぎゅっと姫の頭を僕の肩に押し付けて、その頭を優しく撫でる。



「僕が傍にいる。…傍にいてあげるから」


だから、僕を見て。


小さく呟いた言葉は、花火の音に乗って、届いただろうか。





夏に咲く花

それは、花火
それは、朝顔

それは、恋

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