すべては、君のために



私は、いつだって孤独だった。
親もいる、兄弟もいる。だけど、忙しくてかまってもらえなくて、…いつも一人だった。

寂しい…誰か、私の傍にいて……

そう叫びたかった。…でも、ちっぽけな私が、それをさせない。
でももう、心は壊れかけていて、…気づいたら家に帰ることが嫌になっていた。
いつも帰るのが遅くなるように図書館で勉強して、公園で時間をつぶして、家に帰ったらお風呂に入って寝るだけ。
何をしても、楽しくなくて。…友達といても、どこか満たされなくて。

唯一、公園で月と星を眺めている時間が、私の心を落ち着かせてくれた。

そんな時、


「姫ちゃん?」

「……沢田、くん…?」


不思議そうな顔をした同じクラスの沢田綱吉君が立っていた。

沢田君は、同じクラスだけど話したことがあるのは数回。
そんなに親しい人ではなかった。

それなのに、沢田君はひょこひょこと私に近づくと小さく首を傾げる。



「こんなところで何やってるの?」

「沢田くんこそ」

「うちにいるチビが公園に忘れものしちゃって…あ、あったあった。ったく、こんな危ないもん忘れて…」

「沢田君、兄弟いるの?」

「いや、居候、かな?あはは…」

「ふぅん…」



どうやら複雑な事情があるようだ。
微妙な顔をして笑う沢田君にこれ以上は失礼かな、と深くは聞かなかった。

自然と沈黙が流れたかと思うと沢田君は「じゃあ、オレ行くね」と困ったように笑って私に背を向ける。
…そんなに親しくないんだから、当然だよね。
こんなところで誰かに会うなんて初めてだったからか、少しだけ寂しく感じて思わず視線が下に向かう。



「あ、あのさ!姫ちゃんって明日もいる?」

「え…?」

「あ、いや、ごめん!深い意味はないんだけど、」

「いるよ」

「え…」

「明日も、いる」



明日も会おう、とか、待ってる、とか、そんなことは言わない。

でも、…どうしてだろう。また、会いたいと思ってしまった。
口には出さないけど、小さな願いを込めてそう答えると沢田君はにっこり笑って「じゃあ、また明日!」と走っていった。


それから、毎日沢田君は公園に来てくれた。時にはお菓子やジュースも手にもって。

話題は他愛もないこと。
今日の数学のこと、獄寺君や山本君のこと、家にいるおチビちゃんたちのこと。
時にはありえない兄貴分さんのこと、雲雀さんのこと、お父さんやお母さんのこと。
沢田君から語られる話はどこか温かくて、楽しくて、優しい。



「素敵だよね…沢田君のお父さんもお母さんも」

「いやーあのダメ親父は素敵とかそういう言葉からかけ離れてるよ、ホント」

「ふふ、そんなことないよ。…うちに比べたら、全然…」

「…姫ちゃん」

「あぁ、ごめん!変なこと言っちゃって。私ってば、何言って、」



突然、途切れる言葉。

…沢田君に、抱きしめられていたから。

突然のことで戸惑ったけど、それ以上に…沢田君が、温かくて。
ずっと、ずっと…誰かにこうしてほしかったのだと、気付いて。

自然と、涙がこぼれた。



「傍にいてくれないかな。…ただ、いてくれないかな」

「…沢田君」

「姫ちゃんが笑っているときに、姫ちゃんが泣いているときに、…傍にいたいから」

「…うん…っ、傍に、いたい…」



これが愛なのか、わからない。
キラキラした想いじゃない。人によっては、ただの同情だというかもしれない。

それでも、傍にいたいという気持ちは本物で…誰にも譲ることはできない。



すべては、君のために

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