愚かな私の小さな願い
*設定セフレ。苦手な方は注意。
きっかけは、もう忘れてしまうほど小さなものだったように思う。
自分でもこの関係が不毛であることくらいわかっている。
ーーーただのセフレだなんて。
でも、セフレでもいいと言い出したのは自分。
…セフレでもいいから近くに…雲雀さんの視界に入りたいと思ったのだ。
我ながら驚くほど一途だ。そう自嘲する。
「ねぇ」
「…しますか?」
教室でぼんやりと黄昏ていればかけられる声。
…あ、そういえば雲雀さんに私の名前呼ばれたことないな。
そんなことをふと考えながら振りかえれば不機嫌そうな雲雀さんが立っていた。
不機嫌であっても綺麗な顔だと見つめていると黙って押し倒される。
雲雀さんの目には、明らかな激しい熱を宿していた。
あぁ、どうやら彼は今彼女と喧嘩中らしい。
苛々していること、そしてその原因が大抵彼女であることに気づいてしまう自分が何とも皮肉だ。
声に出さずとも、その雰囲気だけで察してしまうなんて。
苛々をぶつけられるように手荒く抱かれる体。
それでも心が空っぽの私は何も思わない。
ただ、与えられる熱と快楽だけに身を委ねるだけ。
虚しいとも、悲しいとも思わないのだ。
一通りの行為が終わると雲雀さんはさっさと身だしなみを整える。
私もそれに倣っていると、突然雲雀さんが口を開いた。
「…君、何も聞かないよね」
「……、…聞いてほしいんですか?」
「いや…」
「…自分の立場くらい弁えているつもりです。
私は雲雀さんにとって、ただのセフレです。それ以上でもそれ以下でもない。
だから、その一線も越えるつもりもありません」
「……あぁ。そうだ。君は、彼女じゃない」
「…っ、」
わかっている。だけど、本人に突きつけれるのは、思った以上にショックだった。
…ショックを受ける必要はないとわかっているのに。
「…今日、彼女に別れようといわれた」
「……、…」
「理由は、君だ。セフレがいるなんて最低だといわれた」
「……つまり、お払い箱ということですか」
彼女が浮気だというのなら、…それを理由に別れ話をしているのなら、私と縁を切るのは当然だ。
…そうか。だから珍しく情事だけではなく、会話をしているのか。
静かに私が問いかければ雲雀さんは珍しく黙りこんだ。
無言は肯定。しかし、今の状況で黙るのは些か卑怯だ。
どうせならドライな関係なのだからドライに別れ話をしてほしい。
…黙ってしまっては、無駄な希望を抱いてしまうではないか。
「雲雀さん、最初で最後の…いえ、ただのひとり言です。
彼女さんにセフレとは切った、君が大切だと伝えに行ってください。
そうすればきっと雲雀さんの誠意が伝わりますよ」
「………ん、」
ごめん、もありがとう、もなかった。
でも、それでいいと思った。
雲雀さんが私を抱く日は大体決まっていた。
彼女と喧嘩した日、彼女に言いたいことを言えなかった日、仕事で嫌なことがあった日。
溜め込むには大きすぎて、…悩んだとき、雲雀さんは私を抱いた。
相当な自惚れだと思う。でも、雲雀さんにとって少しでも支えになっているのではないかって、思った。
だから、…………。
「恭弥、明日ね、」
「…うん、」
遠くから微かに聞こえてくる幸せそうな声。
…あぁ、どうやら上手くいったらしい。
窓にそっと寄り添って二人の背中を見つめる。
今日でこの関係は終わり。
でも、少しでも……
あなたの信頼を得られていたと、自惚れてもいいですか?
愚かな私の小さな願い
馬鹿な願いだ。
…でも、雲雀さんの何かになりたかった。
ただ、それだけ。
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