これが一目惚れというやつか
初めて会った瞬間は、強烈だった。
「お父様、お見合いってどういうことよ!?」
バンッ!という荒々しい音を立てて応接室の扉が開いたかと思えば、目を吊り上げて怒鳴る女性が入ってきた。
美人が怒ると迫力あるって本当だったんだ、というのが第一の感想。
…こんなに美人なのに、もったいない、というのが第二の感想だった。
ボスの前に座っているオレに気づいたのか、彼女は若干気まずそうにする。
そして、今更取り繕って「…失礼いたしました」と小さく頭を下げた。
そんな彼女に、目の前のボスはやんわりと笑みを浮かべた。
「ちょうどよい時に来た。綱吉くん、これが私の娘の姫だ。見ての通り少々お転婆というか…気が強いところがあるが、根はいい子なんだよ。
姫、ご挨拶なさい。ボンゴレファミリーのボス、沢田綱吉くんだ。お前の見合い相手だよ」
「…っ、お言葉ですが、お父様!私、結婚なんてするつもりありません!!」
えええ!?見合い相手前にしてそれ言っちゃう!?
と、いうツッコミは心の中に留める。
だが、ボスはどうやら想定内だったらしく、「働き始めて数年…未だ好い人がいないじゃないか。別に絶対結婚しろとは言わないから少しくらいお見合いしたっていいだろう?」と困ったように笑った。
話によると、彼女は珍しく一般職についているらしい。
だから、一般人と変わらない生活を送っているそうだ。…実家は大きなマフィアだけど。
「…っ、あなた!」
「え!?あ、はい!」
「お見合いなんてしたくないわよね!?あなたもまだ若いし、まだ興味ないわよね!?」
はいと言え!!と言わんばかりの目力。
じっと見つめられて、思わず自分も見つめ返す。
意思を貫く力。
…それは、中々もてるものではない。
今回で言えば気の乗らない見合いであっても、普通ならば親の願いならばと妥協して受けることが一般的だろう。
だが、目の前の彼女は自分がどれだけ仕事が好きか、受ける気もない見合いを引き受けることがどれだけ相手(つまりオレなのだが)の迷惑になるか、ボスに訴えかけている。
…あぁ、なんか…いいな。彼女。
流されず、凛とした姿が、…眩しい。
「迷惑じゃないですよ」
「ほら、お父様。彼もそう言って…、…え?」
「初対面だけど…君に惹かれてるって言ったら…迷惑かな?」
ぽかん、と呆気にとられる表情は、…少しだけ幼い。
あ、かわいい、なんて思うオレはもう彼女に肩入れしてる。
え、あ、な、何、言って…と顔を赤くしながらしどろもどろになる彼女がかわいくて、つい、姫の腕をひきよせ、その体を腕の中におさめていた。
「もっと姫のことが知りたい」
これが一目惚れというやつか。
人生何が起こるかわからない。
扉を蹴り破るくらいの勢いで入ってきた人のことを気になり始めるんだから。
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