3
「3年ぶりだった。
コムイ兄さんは私のために『科学班室長』の地位について教団に入ってくれたの。
その時初めてレティシアにも会ったわ」
こんなこと話させたくなかったわ……
これはリナにとって悲しい記憶だから……
レティシアは少し俯き、アレンはその兄弟愛話にジィィンっと感動していた。
「すごいなぁ。コムイさん。いつもはアレだけど」
思い出される姿は「リナリ――!!」と泣きながらシスコンぶりを発揮する姿。
有能なのだが、如何せんいつもがふざけているので「すごい人」「偉い人」という像から離れている。
リナリーもそのことをわかっているからか、恥ずかしそうに照れながら笑う。
「うん。アレだけどね。だから私は兄さんのために戦うの」
「兄弟かぁ…いいなぁ…」
「(私が戦う理由…ね)」
自分にはない。明確な…譲れない戦う理由が。
いや、自分の使命を果たすため、という理由が戦う理由になっているのかもしれない。
…でも、それはリナリーのように誰かのため、ではない。
神田には「大切なものが見えていない」と言ったが、自分はどうなのだろう、と小さく自嘲した。
そんなしみじみした空気を破る少女の声。
「あっ!ね―そこのカボチャァ――
『カボチャと魔女』のチケット、どこで買えばいーのぉー?」
「(…この子……まさか…)」
感じた気配にレティシアは少し警戒しながら少女を見つめた。
しかしアレンはイキイキとその女の子の背を押し、持ち場に戻ろうとする。
「いらっしゃいませー!チケットはこちらでーす!」
「んー」
「じゃ!リナリー、レティシア、後半がんばってきます!」
「がんばって。…イキイキしてるね。アレンくん」
ね?と同意を求めレティシアの方を見るが、レティシアは少女を見つめ続けている。
レティシアは確かに見たのだ。…少女が自分を見て少し笑ったのを。
視線が厳しくなっているとリナリーに「レティシア?」と小さく声をかける。
やっと気づいたように「ん?」と返事を返した。
「どうしたの?」
「…なんでもないわ。でも…」
「何だと!!!」
「「!?」」
「売り上げ金をスリに盗られただと!?」
「今の声は、」
「行ってみましょう!」
駆けつけてみるとミランダが団長から厳しい叱責を浴びていた。
どうやら聞こえてきた通り、スリに売り上げを盗まれてしまったようだ。
アレンにリナリー!と呼ばれ、リナリーは屋上に飛び上がる。
「上から行くわ」
「私はここに残る」
「はい!お願いします」
カボチャのかぶり物を脱ぎ、アレンは安心するようにミランダに笑いかけた。
「大丈夫。捕まえてきます」
リナリーを追いかけていったアレンの背に泣き声でアレンくん、と言うミランダにレティシアは大丈夫よ、とまっすぐな目でいいきる。
ようやくミランダの気持ちがよい方向へと向かっているのだ。
それをスリなんかに潰されてはたまらない。
「そんなに心配しなくても大丈夫。モヤシくんとリナがきっと捕まえ、」
「役立たず」
レティシアの言葉を遮り、つららのようにミランダの心に突き刺さる。
人の言葉は人を喜ばせることもできるが逆に傷つけることもできる。
たった一言がミランダを絶望のふちに追いやった。
やっぱりね。
結局私は何やってもダメなのよ。
なのにがんばっちゃって…バカみたい。
もうイヤ……
「何で私ばっかりこうなのよ…」
「ミランダ…?」
呟くようにいうミランダにレティシアが視線を向ける。
でもミランダは興奮したように言葉を続けた。
「何で私の時計がイノセンスなのよ…っ!!」
「落ち着いてミランダ!」
「何で私は…」
泣き崩れるミランダ。
レティシアはこのままじゃいけない、と判断し、移動しようとしたが……
少女は飴をなめながら笑う。
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