「モヤシくん失礼ねぇ。嘘も方便っていうじゃない!」

「モヤシくんっていうのは失礼じゃないんですか…」

「2人とも…どうしたんだい?」

「リナリーのお見舞いに…まだ目が覚めないみたいですね」

「長い夢でも見てるんだろう。ブックマンの治療を受けたから心配はいらないよ」



左手どう?と聞きながらコムイは資料をまとめていく。
レティシアとアレンはコムイの後ろにある段ボール箱に座った。

アレンはコムイの問いに「調子イイです」と答え、小さく首を傾げた。



「ブックマンか…不思議な医療道具持ってましたよ」

「鍼術と云ってね。中国太古から伝わる針治療だよ。あのおじーちゃんはそれのスゴ腕の使い手」

「一流よねぇ、ブックマン。ホント、ラビの師匠とは思えないわ」


はは、そんなことないよ〜と笑いながらもコムイの資料を整理していく手は止まらない。
積まれていく資料をアレンはぼぉっと見つめた。
…いや、ぼぉっとしていたわけではない。気になることがあるから考えを巡らせていただけだ。



「…コムイさん」



名前を呼ばれただけだがレティシアとコムイの手が止まる。
アレンから紡がれる次の言葉をわかっているからだろう。



「忙しいのにどうしてわざわざ外に出てきたんですか?」



アレンの問いにレティシアはクスリと嬉しそうに笑った。

アレンも鋭くなったわねぇ。
でもこれくらいのことがわかるようにならないとね。

レティシアはゆったりと段ボールに座りなおすとまっすぐとアレンを見つめた。



「僕やリナリー、レティシアのため…じゃないですよね」



アレンの言いたいことがわかったからかコムイもゆっくり振り向いた。
ちゃんとその言葉を受け取るように……

しかし、レティシアは横目で赤い塊を捉えて小さくため息をついた。

また気配を消して入ってきて……
あきれなのか諦めなのか、レティシアはため息をつくだけで何も言うことはなかった。



「ノアの一族って何ですか?」

「それをウチらに聞きに来たんさ」

「「!」」

「正確にはブックマンのジジイにだけど」



ミカンと書かれた段ボール箱からラビは顔を出していた。
レティシアは気配を消すのが無駄にうまくなったわねぇと呟いた。

しかし気づいてなかった2人は驚くのは当然だ。



「「(アレ!?いつ入って来たのこの人)」」


そんな2人の心知ってかラビはニコッと笑いかけた。


「ノアは歴史の『裏』にしか語られない無痕の一族の名だ。
歴史の分岐点に度々出現してんだがどの文献や書物にも記されてねェ」



あらあら。そんなに勝手にしゃべっていいのかしら?
ブックマンに大目玉をくらうのは安易に予想できるわね。

レティシアの心中を知るものはおらず、ラビもまた知らず。



「そんな不明(アンノウン)が伯爵側に現れた。
だからわざわざ来たんしょ、コムイは。
この世で唯一裏歴史を記録してるブックマンのトゴえ゛…」



レティシアの予想は的中。
ラビの顔にブックマンの綺麗な跳び蹴りがきまる。

流れに任せ、ラビは病室の壁に吹っ飛ばされていた。



「しゃべりめが。何度注意すればわかるのだ。
ブックマンの情報はブックマンしか口外してはならんつってんだろ」

「「(いつ入って来たのこの人!?)」」



びっくりしている2人(予想してた人一人)を無視し、口げんかを始める2人。


「いーじゃんよ。オレももうすぐアンタの跡、継ぐんだしさぁ」

「お前のようなジュクジュクの未熟者にはまだ継がせんわバァーカ」

「こンのパンダジジイ」


語尾にハートがついているがラビの顔には怒りマークがたくさんついている。
毒をはくラビを無視し、ブックマンは鋭い眼光をアレンにむけた。



「アレン・ウォーカー」



ついつい背筋がのびてしまいレティシアに「取って食べられるわけじゃないわよ」と言われてしまう。
しかし少し師匠であるクロス・マリアンが怒ったときと雰囲気が似ていていたのだ。

反射条件、というものだろう。



「は、はいっ!!」

「今は休まれよ。リナ嬢が目覚めればまた動かねばならんのだ。急くでない」



―――ばたん

何も反論する暇もなく、締め出されるアレンとラビ。
もちろん、レティシアは中にいる。アレンとラビだけ、だ。

ティムキャンピーの羽ばたきが虚しく響いた。


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