ふっと何かが頬をなでた。
神田はそれだけで目が覚める。
しかしまだ辺りは暗く、まだ日が昇っていない時間だった。いや、真夜中と言ってもいい。
いくら早起きでも早すぎる。

神田は起きあがると、ある異変に気がついた。

ゴズが寝ていたはずの寝床が空。
そして……


「あいつまで…」



レティシアが寝ていたベッドも空だったのだ。

神田は二人を探すためすぐに団服を着込み、六幻を背負った。



「(レティシアがいない。アイツもいないとなると…)」



ゴズは知らんがレティシアはオレが知る限り早起きではなかったはずだ。
いやむしろ寝坊の方。それにさっきの様子の変化…何かあったのか?

嫌な予感がして、神田は自然と眉を顰めながら外に出る。
先ほどまでの土砂降りはすでに止んでおり、少しだけ星空が雲の切れ目からのぞいていた。
しかし相当降っていたため地面はぬかるんでおり…一つの足跡を見つける。

あの足の大きさからすると…レティシアか。

手掛かりがある方から追おうと考えた神田はその足跡のある方へ歩いていく。
すると見慣れたプラチナブロンドが雨に濡れたのか艶やかに光っていた。

何事もなく立っていたレティシアに少しだけ安心しつつも、素直に喜べずにぶっきらぼうに声をかけてしまった。



「…レティシア、何してる?」

「…、…ユウちゃん」



レティシアは振り向かずに呟くように神田の名前を呼んだ。
少し曇っている空を切なそうに見上げながら。

そんなレティシアに神田は再び眉を顰めていた。



「お前…今日なんだか変だぞ」

「うん。私もそう思うわ」

「…雨に、なんかあんのか?」



神田が思いつくのはそれだけだ。
レティシアの様子が変になったのは天気が悪くなり、雨が降り始めてから。

するとレティシアは目線をそらさずに独り言を呟くように言葉にする。



「雨は…私の代わりで…辛い日を思い出すから……」



あの日。

あの日も大粒の雨がたくさん降った…自分の涙を隠してくれるように―……


『涙ならオレが隠してあげるから――』


そう言ってくれたあの人を裏切ってしまった日だから……



「…どうしてもね、思い出してしまうの…」



頬が濡れていた。
それは雨で濡れたのか、それとも自らの涙でぬらしたのか。
それはレティシアだけにしかわからない。

神田は慰めも何も言わずレティシアにゆっくり近づく。



「…風邪引くぞ」


レティシアはふわりと温かいものを肩にかけられた。
少し重く、黒いところを見ると神田の団服だろう。



「ユウちゃんが寒いよ」

「オレなら寒くねぇ」

「シャツ一枚なのに?」



冬とまではいかないが、森に囲まれているからか気温は高いとは言えない。
さらに雨も降り、きっとシャツ一枚では寒いはずなのだ。

わかりやすい不器用な優しさにレティシアがクスッと笑うと神田は照れ隠しにそっぽむく。

本当に…ユウちゃんは優しい。
不器用なところがあの人そっくりだわ……



「ありがとう、ユウちゃん」



与えられた優しさに遠慮なく甘え、ぎゅっと神田の団服を抱きしめ俯いた。

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