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「ユウちゃんおかえり」
「てめぇもだろうが」
「いいじゃない!『ただいま』で『おかえり』よ!」
にこりと笑うレティシアに、そうかよとだけ短く返した。
明らかに余裕がない神田に何も言わず、レティシアはその横顔を見つめる。
神田は船が着くとすぐに船からおり、部屋へと足早に向かう。
確かめなければ…確かめなければならない。
自然と早くなる歩調。
レティシアは神田の心中を察しているのか何も言わない。
「神田さん!血まみれじゃないですか!すぐ医療室へ行ってください!」
ゴズがその途中を阻む。
本部に報告する際、神田が大けがしたことを報告していたのだろう。
医療班の人達もいたが、神田は黙って振り切った。
自分たちじゃ止まることはないだろう。
そう悟ると唯一神田に意見を言えて、かつその言うことを聞かせることができる人物…レティシアに助けを求める。
「レティシアさんからも言ってください!」
「…まぁちょっと待って」
普段なら医務室に行けと言うレティシアも神田を止めることなく、後ろを歩いていく。
神田は自分の部屋のドアを荒々しく開け、その存在を確かめた。
とたんにホッとする。
いや…ホッとするのと同時に、複雑な…何とも言えない感情に襲われる。
そんな曖昧な感情に思わずフッと自嘲を漏らしているとタイミングを計ったかのようにレティシアの声がドアの向こうから聞こえてきた。
「ユウちゃんーここは完全に包囲されているーおとなしく出てくれば蕎麦をおごるわよー」
「…アホか」
「あらぁ?そんなこと言って。お蕎麦食べたいでしょ?」
「いらねぇ」
「…もういい。ジェリーに一生ユウちゃんにお蕎麦作らないように言うから」
「そこまでするか!?」
つーかレティシアが言ったら本気にされるだろうが!
まじで一生蕎麦食えなくなる。
「なら開けてよー」
「ちっ、わかった」
まるで小学生の子供がだだをこねているようだ。
神田はそんなことを考えながらドアを開けると心配そうな顔をしたレティシアが立っていた。
「医療室に手当しに行こう?」
「これくらいどうってことない。もうふさがりかけてる」
「ダメよ」
一言で切り捨てる。
その声は久しぶりに聞いた威厳ある声だった。
レティシアはゴズには聞こえないように小さく呟く。
「ユウちゃん、その回復力の早さ…胸の刻印が自分の命と引き換えに与えている力よね?」
「…!!お前なんでそのことっ!」
「企業秘密。いっておくけどコムイに聞いたわけじゃないわ。
…ちゃんと手当したほうがいい。力を使いすぎて…ユウちゃんを死なせたくない」
「…ちっ、わかった」
しょうがない、とばかりに了承したが、内心は違う。
レティシアが『死なせたくない』と言ってくれたことに神田は少し喜びを感じていたのだ。
最近、そういう言動がよくある気がする……
オレの、うぬぼれなんかじゃなくて…な。
「じゃ、行きましょう」
神田を部屋から出し、レティシアが背中を押す。
するとゴズがいきなり頭をさげた。
「言い忘れてました。助けてくれてありがとうございます」
「(ユウちゃんがお礼言われるなんて…ね)」
「あなたが本当に冷血なら、オレのことなんか見捨てたはずです。
レティシアさんも助けないと言いつつオレのこと助けようとしてくれました。勝手なこと言ってすいませんでした」
「くだらん」
「…まぁ忘れてたのよね」
「実際に血を流し、アクマを倒したのはあなた達だ。
オレはただ見ていることしかできなかった。
そんなオレに偉そうに情けを語る資格なんかなかったのに」
「そうだな」
「そうね。そこは否定しないわ」
でも最期に見たアンジェラの顔……
やすらかで…初めてアンジェラの本当の笑みを見た気がした。
だがそんなこと、神田にはどうでもいいことだった。
「戦闘において、もとからファインダーの人間に何も期待していない。謝るのは筋違いだろ」
「うーん、期待していないわけじゃないけど…できればファインダーなしの任務がいいわね」
ゴズは何か言いたげだったが無言で深くお辞儀して去っていく。
不器用な二人だと思うが、自分がちゃんとわかっていればいいのだと思ったからかもしれない。
レティシアはその背をしばらく見つめたが、ゆっくりと目をそらした。
「さてと。ユウちゃん、医療室へ行くわよ!」
「…あぁ」
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