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うふふ、と幸せそうな笑みを浮かべる姫にリナリーはずいっと詰め寄る。
突然近寄られた姫は「な、なに?」と困惑しながら身を少しだけ引いた。



「ねぇ、姫…何かいいことあった?」

「え?…何もないよ?」

「うそ。顔に“嬉しいことがありました”って書いてあるもの」

「え」



思わず顔を触る姫にリナリーは嬉しそうな笑みを浮かべる。

揶揄われているのだと気づいた姫は姿勢を正してカップに口をつけた。
それで?と小さく首を傾げるリナリーに姫は首を傾げ返す。



「あったんでしょ?」

「う、うん…ちょっとね」



照れくさそうに頷く姫にリナリーはさらに笑顔で詰め寄った。



「もう!焦らさなくていいわよ!私、知ってるんだから」

「え!?な、なんで!?」

「何でって…親友だからに決まってるでしょ」

「誰にも言ってないはずなのに…」

「…?何言ってるの?姫のお父様から聞いたわよ?」

「え?お父様?」



あれ?と二人で首を傾げ合う。…何やら話がかみ合わない。
リナリーは何を聞いたの?と姫が聞くと、リナリーは一口紅茶を飲んだ。



「姫、婚約したんでしょ?」

「え!!??」

「え、聞いてなかったの?」



目を丸くするリナリーに内心「どうして本人に言ってないのよ、お父様!」と今はいない父に抗議する。

そういえば最近執事のラビが忙しそうに父と連絡を取っていたことを思い出す。
私に婚約者、と呆然としているとリナリーは「本当に何も聞いていなかったのね」と同情するようにため息をついた。



「ねぇ、リナリー…その方の名前は聞いている?」

「えぇ。あの政治のご意見番神田家のご長男、ユウさんって聞いてるわよ」

「神田、ユウさん…」



神田といえば昔からある名家であり、政治の世界では有名な名前だ。

(そういえば、神田さんも…まぁ珍しい名字ではないものね)

まだ顔も知らない相手と知らない間に婚約していたことに小さくため息をする。
お父様は自分のことを溺愛していることを知っていたが、仕事に関してはシビアなところがある。

恐らく政略結婚なのだろう。相手がどんな人なのかとても気になった。


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