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「…その様子じゃ会ったこともなさそうね」
「リナリーは、その人に会ったことある?」
「えぇ、一度だけ。灰色学園に通ってるって言っていたわよ」
「灰色学園…」
お嬢様お坊ちゃま学校として有名な大学だ。
幼稚舎からエスカレーター式で進学でき、有名進学校として名を馳せている。
…そんなお坊ちゃまなら性格は一体どんなものなのか想像もつかない。
姫が難しい顔をしているとリナリーは「そうだわ!」と手をたたいた。
「会いに行けばいいのよ!」
「え!?で、でも、会ったこともない人に」
「遠くから見るだけでもいいじゃない。ね?行きましょ!」
「ちょ、リナリー!」
言い出したらきかないリナリーは姫の手を引いて車に乗り込む。
無鉄砲な性格だが、この天真爛漫さが憎めないところでもある。
…それに婚約者が気になるという気持ちもある。
車から見える風景を眺めながら少しだけ緊張する心をおさえていた。
「さ、着いたわよ」
「ここが灰色学園…」
「手分けして探しましょ。神田ユウといえばたぶんすぐに見つかるわよ」
見つけたら連絡するわね!と笑顔で去っていくリナリーに声をかける暇もなかった。
すでに遠くへ行ってしまったリナリーに再び苦笑すると学校を見据える。
ここに神田ユウさんがいる。…私の婚約者が。
近くを通りかかった人に声をかけながら「神田ユウ」さんを探していく。
どうやら「神田ユウ」さんは有名な人のようですぐに「剣道場にいるわよ」と教えてもらえた。
剣道をしているんだ、と自分の知っている神田さんとの共通点を見つけながら剣道場へと向かう。
剣道場では稽古が始まっているのか元気のよい勢いのある声が聞こえてくる。
そっと中をのぞいてみるとそこには喫茶店の常連である神田の姿が。
神田さん、と小さく彼の名前を思わず呼ぶと聞こえてしまったのか、神田の視線がこちらへ向かう。
目が合ってしまえば神田に驚きの色が灯り、どうして、と口がかたどる。
そして練習をやめて姫のところへと歩いてきた。
「どうしてここに、」
「あ、の…人を探していまして…」
「人?誰だ?」
「神田ユウさんという方を探しています」
「…神田ユウはオレだが」
「え?」
驚きすぎて思わずぽかんとして神田を見つめてしまった。
確かに名字は同じだと思っていたが、まさか本人だったとは……
この人が、私の婚約者。
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