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「オレに何か用か?」
不思議そうに首を傾げる神田に姫は思わず言葉に詰まる。
まさか私はあなたの婚約者です、なんて言えるはずがない。
一体何と言ったらいいのか、と逡巡していると神田の道着が目に入る。
「あ、の、…護身術…護身術です!」
「は?」
「護身術を教えてほしくて、探していました…っ!」
「あぁ、この前あんな目に遭ったからか」
「はい…っ」
咄嗟についた嘘だったが、この間のこともあり神田はすんなりと納得してくれた。
ドキドキしたが、護身術を習いたかったのも事実だ。
「今日は無理だから…とりあえず練習風景を見ていくか?」
「はい。見学させてください」
「あぁ、じゃあ入れ」
一礼して入ると一斉に練習した部員たちが「こんにちは!」と挨拶してくる。
驚きつつもこんにちは、と返して道場の端へ案内される。
しばらく様子を見てろ、と言われてその場に正座すると練習の様子を見ておく。
声を出しながら竹刀を振る神田はとてもかっこよくて、綺麗。
ピンと張り詰めた空気が心地よくて、思わず見惚れてしまっていた。
「(なんて、綺麗なんだろう…)」
「待たせたな」
「あ…いえ、とても楽しかったです」
「そうか」
汗が滴る神田はどこか色っぽくて少しだけドキドキさせられる。
ほうと見惚れていると神田は姫の隣に座り込み、汗を拭いた。
「…私にもできるでしょうか」
「あぁ、簡単なのを教えてやるよ。心配するな」
ぽんぽん。
そんな音が聞こえてきそうな優しい手つきで頭を撫でられる。
突然のことで反応できなかったが、その頭を撫でられた感触がまだ残っていて、思わずその部分に触れる。
その部分から温かいものが流れ込んでくるようだった。
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